ザリガニの鳴くところ (2022) 

文字数 729文字

【ワイルド だろ?】 2022/11/22


ベストセラーは必ずしもベストクォリティとは限らない。
全米ベストセラー小説であり、日本においても本屋大賞(翻訳部門)に輝く本原作も、その定理が当てはまる。
さて、シネマ化においてそのような元ネタをどのように昇華させるのか? 興味が溢れまくっていた。

幼年から死までほぼ「女の一生」を描く物語、原作ではとってつけたようエピローグがどうにも落ち着きが悪かったのが、シネマでは感動のシークエンスになっている、見事シネマの勝利だった。
一番見たかった、そして危惧もしていた沼地の動物たち、スケッチ画、沼地の四季はドキュメンタリーレベルとは言えないが、納得できる。
原作で大きなスペースを割いていた生物学詳細説明はその映像とともに割愛されていたが、本作女性主人公の一生にとってはさほど影響は出ていなかった。

なによりも脚本が優れている。
原作が採用した長大な物語を時代を行き来して緊張感を盛り上げる煩雑さは、顧客である観客にも混乱こそ生じ何らメリットはない。
法廷シーンの中で、主人公の半生を一挙に説明する、家族・家庭内暴力・ネグレクト・コミュニティからの差別偏見・少年の献身・初恋・失恋・罠そして殺人事件。
初執筆小説にありがちな長い描写に安堵するミスパートを、シネマではバッサリと刈り取ってくれている。 繰り返しになるが、カタルシスになるはずの取ってつけた晩年のエピローグが、シネマで構成を変更したことで息を吹き返す。
そして衝撃のエンディングにつながる。

自然の中で獲得した知恵、これはワイルドそのものだという衝撃を。
欲張りな「生物学ベース恋愛ミステリ法廷物語」が洗練されたジェンダー譚に生まれ変わるのを目の当たりにした。
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