キャプテン・フィリップス (2013)

文字数 931文字

【正義か傲岸か?】 2013/11/29



エンターテイメント一片の欠片さえないシビアな記録風シネマだった。
ソマリア沖での海賊行為によって人質になり
生死の淵に立たされたコンテナー船長の実話だから仕方がないといえばそれまで。

ストーリーは大きく三つのパートに分かれる:
(1)海賊の襲撃
この海賊たちは、特別な作戦もなくただただ遮二無二船に取り付いて乗っ取る。
その後船主から身代金をとるというかなり荒っぽい国際ビジネスマンたちだ。
しかし、彼らにはこの海賊行為しか生きていく道がない、追い詰められた状況がある。
船を襲うか、腹をすかして死ぬか。

(2)人質になった船長と4人の海賊
民間船舶の船員は警備兵もいなく武器も持っていない、まして命を懸けて船を守る謂れもない。
フィリップ船長のような古参高級船員のみ海賊に抵抗し、人質となる。
海賊と言っても元漁師と子供の素人集団、航海途中で船長に懐柔されそうになる逆ストックホルム症候群すらあった。

(3)米海軍救出作戦
政治的要請でヘリ空母はじめ3隻の軍艦に、なんとSEALsまで出動する強力な救出部隊。
マシンガンだけの海賊が敵うはずもない。
最後に指揮を任されたSEALsの冷血とも思えるほどの鮮やかな職人技解決。

これら(1)~(3)のシークエンスは、しかし、とても淡々と、
ともすれば退屈にも感じられるほどに流れていく。
確かなことは、アメリカの利権を犯す犯罪はどんなちっぽけな、
どんな弱い者にも圧倒的武力でこれを制圧するという事実。
これをアメリカの正義と呼ぶか、強国の傲慢と非難するか。

どちらの立場で本シネマを観るかによって感想は異なるのは当たり前だけど、
敢えて海賊の目線で観ることもないだろう。
ただ、あまりにも幼稚で貧弱な知識で海賊犯罪に手を出す若者たちが気になる。
実はシネマの中でもさりげなく
「俺たちは漁師だけど、取る魚がない、大国が根こそぎ獲っていく」とか、
「俺たちはビジネスマン、アルカイダとは違う」とか、
「一発大きな儲けをした」などとその危うい心根をさらけ出させている。

本シネマはともすればトム・ハンクスの迫真の演技を称賛することに終始するだろう。
しかし、
世界の国々のあまりにも大きな富の格差が静かに横たわっていることも忘れたくない。

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