杉原千畝 スギハラチウネ (2015)

文字数 827文字

【「本当の国益」を描く良心のシネマ】 2105/12/7



冒頭シーンで、杉原に対する日本政府の評価が示される・・・
「最低の外交官、抹殺された実績」。
確かに僕の杉原に関する知識は乏しいものだったことを痛感する。
ユダヤ人にヴィザを発給して多くの命を救った日本人という程度だったが、
その全貌をこのシネマで知ることになる。

先ず驚いたのは、前述したとおり外交官としては異色な存在だった。
学閥が幅を利かす官僚としては、マイナーな満州国、
ハルピン学院出身のハンディキャップがあったはずだ。
杉原が、学閥の代わりに選んだのが諜報力だったことに僕は驚いた、
彼にはスパイとしての任務が与えられていた。
満州での対ソ連諜報実績のため、ソ連から入国を拒否されたのは大いなる皮肉だが、
そのことが彼の偉業につながる。
その偉業の原点は「世界を動かす」という熱意、
それは「日本のためになること」という信念に支えられていた。

リトアニア領事の際に6,000人ものユダヤ人にヴィザを発給する有名なエピソードは、
このような彼の豪胆で柔軟な思想から生まれた。
ナチス・ドイツとの同盟に関しては大きな疑念を表明し、
ドイツのソ連侵攻の結果として日本の開戦・敗戦を早くから予測していた。
杉原の諜報活動は、まったく日本政府を動かすことなく、
彼の予想どおり日本国は300万人もの犠牲者を出した。

敗戦後も外務省が彼の記録を抹消したのも、いかにも日本らしい隠蔽作業だった。
正しいと思うことを実行することが国益ではない世界が、この国にはまだ根強く残っている。

杉原の妻の言葉が胸に響く・・・
「肌や目の色が違っても人の心はみんな同じなのですね」・・国益はすべての人のためにある。

本シネマが物語、映像、編集すべて稀にみる国際感覚に溢れているのは、
チェリン・グラック監督のお陰だろう、感謝する。
観終わって、まず思ったのは世界の人びとに観てもらいたいということだった。
グローバル・スタンダードの日本シネマだと胸を張って自慢できる。

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