ミスティック・リバー (2003)

文字数 1,353文字

【オーナー社長の栄光の頂点です】 2007/7/11




中小企業のオーナー社長は世界にもたくさんいらっしゃることでしょう。
なかには職人技テクノでオンリーワン企業ともてはやされている
日本の中小企業なんか有名ですね。
クリントは云わずとしれたマルパソカンパニーのオーナー社長、それも創業社長。
苦労した甲斐があって今では世界でも有数の儲かる会社、
皆が働きたい職場として映画人の憧れです。

本シネマ、《ミスティック・リバー》はそんなオーナー社長、
栄光の頂点に咲いた最高作品です。

閑話休題、
クリント社長は、どちらかというと現場に出て働くのが好きなリーダーシップ型の社長です。
過去の監督作28本のうち22本に出演(ほぼ主演)する一方、演出だけの作品が6本。
これをして、出たがり屋さんだとか、節約家だとか、儲け主義(同じか?)だとかを
陰でささやかれていますが、オーナー社長の醍醐味はまさにこの点にしかないのです。
自分の好きに全てを仕切る。
思い返せば22本のオーナー出演作品は結構ユニークですが、
テーマがエキセントリックだったり、演出が実験的過ぎたり、
共演者にはあまり気遣いしなかったり・・・が無きにしも非ず、否定できません。

どうです、オーナー社長っていいと思うでしょう?
しかし、
意外と人は「オーナー社長とは全ての責任を負っている」という
対極のリスクを見過ごしがちです。
オーナー社長は、すべからく、自分の勝手ばかりしてられないのです。
中小企業ですから、ワーナーブラザースという親方会社があります。
意に沿わなくても、律儀にカリスマスターとしてヒットシネマに主演する事も
社長の大事な仕事です。
親方に儲けさせれば、下請けも潤います、ちょっとした無理も聞いてくれます。
スタジオ、スタッフ、セットを使い廻しさせてくれたり、
何より世界にクリントという商品を配給してくれます。

それでもオーナー社長の苦労は絶えません。
時々、外部から執行役員を招聘して自分は指揮だけに徹したくなるときがあるのも、
理解してもらえるでしょう。

ここで《ミスティック・リバー》にもどりますが、
クリントが演出に徹したのが本作。
完璧に近い自然体演出は、いかにも暗い悲しみの河の流れを
僕の心の奥にまでひきこんでくれました。
3人の名男優の演技から窺えるものは、クリントの優しいまなざし、
先達としての包容力なのでしょうか、
ショーン、ケビン、ティムにはとことん感銘しました。
クリント自身も進化しています。
大俯瞰から見下ろす殺人現場の公園シーンはシンプルな警察ヘリの視線、
嘆きの父親が見上げるのは地上から見上げた遠い空のかなた、
予想した展開をことごとく躱してくれたクリント、
そこには映像作家そしてオーナー社長としての自信と余裕がありました。

忘れられそうもないシーン:
犯罪者と警官が真横に並びながら心を少年時代に戻す路上、
ひとり歩み去る・・・見送りと決別。
オーナー社長の栄光の頂点です。

追記: 
《ミリオンダラー・ベイビー》は創業オーナー社長によくある、
死ぬまで現役の証明、だけど結構これ嫌われる。
《父親たちの星条旗》は喩えれば財界活動、
中小企業だけどブランディングの成果が結実、名誉だし。
《硫黄島からの手紙》はオーナー社長最大の役得、コスト最小高粗利率、
かつ日本マーケットをがっちり掌握。
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