迷子の警察音楽隊 (2007)

文字数 876文字

【僕は途方に暮れる】 2008/6/19



物語が始まると、僕は途方に暮れていた。

もとより予断を持たないシネマ鑑賞を心がけている。
たとえ「迷子」と「警察」という作為的単語配列、
アンビヴァレンスをインプットされようとも・・・。
もう一片のアンバランスは「イスラエルに」にいる「エジプト」警官という
幾分ポリティカル要素のシチュエイション・・・・。
何のことはない、正直なところ僕は本シネマを前に予断を満喫していたのだった。
そして途方に暮れてしまった。

ふたつの予断キーファクターは、シネマの骨格にこそなれ、
「テーマ」や「秘めたる想い」には結びつかないまま、
僕の予断は捨て置かれてしまった。

未知の地で迷うのはいたって健康の証、当たり前でもある。
いくら警官でも他国の事情に明るいわけではないから。
僕がそこに内在するものとして期待した「皮肉」や「笑い」は全くなかった。
そこには、
イスラエルの田舎町の閉塞した平凡に紛れ込んだ都会人(アレキサンドリアの警官!)の
戸惑いがやるせなくうずまく。
その警官たちにしても、ストイックな指揮官にいい加減うんざりしている。
何処にも笑いはない、シニカルな笑いすら・・。
僕は本当に途方に暮れてしまう。

もうひとつのアンバランス、
政治・信条・宗教におけるギャップについても、僕は無知をさらけ出す。
もはやこの2カ国は中東戦争を経て同じ経済基盤に拠って立っている。
エジプト人警官達が迷子になることは、その現実を逆説的に証明する。
エジプト人警官が迷子になるくらい、イスラエルは彼らに無関心だった。
「カルチャーギャップ」も「アイロニー」も「スラプスティック」も無く、
本シネマにみたのは、
人生の最終章に足を踏み入れる初老男、音楽隊指揮官の哀しさの切々。

コンサートシーンでわかるのは、
なるほどこの冴えない男がなかなかの音楽家であること。
彼にとって音楽が生きる糧であることが明らかになる。
イスラエルの片田舎で遭遇したたった一夜の思いでも、
彼の心にそれほど長くは留まらないだろう。
そう確信したとき、僕は彼のなかに僕自身を観ていた。

僕はやっぱり、途方に暮れてしまう。

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