沈まぬ太陽 (2009)

文字数 920文字

【謙さんの情熱が役柄を通り抜け発散される】 2009/10/24



原作ファン御用達シネマだ・・・・・
といっても決して揶揄しているわけではない。
原作の刈り込み具合、微妙な変換模様、
ほんの少しのクリエイティビティが程よく調和しているが、
ここはやはり、国民的ベストセラーを標榜するだけあって、
原作から逸脱することはなかった。

結局、
膨大な屈辱と対峙する、これまた信じ難い頑固な主人公を見せるしか、
シネマにも選択肢はなかった。
原作ファンでなければ見落としてしまうシーンの数々は
本来ならシネマ化での刈り込みミスとされるはずだが、
何せ繰り返しになるが「国民的ベストセラー」ならではの予習効果のアドバンテージがある。
あまたのエピソードをできうる限り取り込む。
その説明深度がいかに短浅であろうと、記憶にある原作の描写がそれをフォローしてくれる。
普通では想定できないシネマ製作の前提だった。

一例を挙げれば、航空会社の経営陣、それも本社、子会社における人事序列などは
シネマでは困難なところだが、無理せず軽くいなしていた。
同じようにジャンボ機御巣鷹山墜落状況も最小の説明描写だった。
もし、どこか特別に力点を置いたとしてもこの長編ストーリー全貌を
伝えきることは無理だったと思う。
言葉を替えれば「ダイジェスト版」といえなくもないが、
「沈まぬ太陽」というタイトルに込められた、ひとりのサラリーマンの生き様は明確に伝わった。

これは航空会社ひとつの問題ではない。
日本人、いや社会生活を営む人間すべてが持つ普遍的テーマを映像で再現してくれた。
「何のために働くか?」
労使争議から始まり、左遷、変節、裏切り、家族崩壊、背任、
政治癒着、大事故、改革刷新、挫折、
そして再生へとつながる道程は特に航空会社特有のものでもない。

いみじくも主人公が「これは俺の矜持だ!」と呟く。
時代に流されることなく、属する組織の利益を優先することなく、
むろん自分の利益にこだわらず生きる。
できればその矜持が真の意味で国家に益し、世界社会や地球全般に善なることでありたい。

原作で感じた以上に、主人公の生き方に強く共感してしまった。
ひとえに渡辺謙さんの情熱が役柄を通り抜け発散され続けていたからだ。
謙さんに感謝。

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