ゾディアック (2006) 

文字数 870文字

【「異常」すら平凡に流れていく】 2007/6/17



父の古い友人のお話だから、いわゆる伝聞情報:
この方は、刑事ひとすじ勤め上げた、今は絶滅に近い職人デカさんだった。
この方が言うには、
捜査して、尋問していると、容疑者が「やってるか?」どうかはわかるそうだ、
相手の目を覗き込むと。

取り付かれたように連続殺人者ゾディアックの謎を追いかける暗号大好き漫画家のロバートが、
容疑者の職場に出向いてじ~っとその眼を覗き込む。
「彼の眼を覗き込んでみたいだけなんだ・・・」と言って。
ロバートが、その眼の奥に何を見て取ったのかは、定かではない。

実話に基づく本シネマは、このようにたくさんのエピソードが結局は「定かにされない」。
曲げてエンターテイメントの悦を追うことなく、淡々と事実のみこなしていくスタイルに
我慢が必要だった。
シーンの切り替えごと、サブタイトルが「それから ○○○後」と告げる、○○は時間の経過であることから、この事実を追うスタイルはスタッフの固執であり、確信だったのだろう。
執拗な2時間37分を体験し、不明瞭な疲労を感じて家路につく。

一晩眠って、このシネマの重みが心のどこかに、しっかりと収まっているのに驚く。
なにがなんでも観客の予想を裏切って「あっ」と言わせなければいけない
強迫観念が念頭にあるシネマの多いこと。
僕は、必然性のない仕掛けに、相当うんざりしていたのかもしれない。
だから、ただただ「ゾディアック」の亡霊に見入られ人生を捧げた本作の登場人物に、
共感していた。
恐らく、リアルな人生はこのように「異常」すら平凡に流れていくのだろう。
新聞記者たち、刑事たち、被害者たち、そしてゾディアックすらドラマチックからは程遠い人生を歩んできた、
1969年から2002年までの30数年間、いったい彼らの人生に巣食った「ゾディアック」とはなんだったのか?
いまだこの殺人犯は特定されず、未解決のまま。
「ゾディアック」はサンフランシスコの街を自由に散歩している・・・
かもしれない恐怖を覚えた。

一貫して、事実をドラマに化けさせなかった製作者に敬意を表したい。

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