モーリタニアン 黒塗りの記録 (2021)

文字数 972文字

【格調高い、勇気の記録】 2021/11/5



上質で格調の高いシネマだった、糞溜めのような下品で忌まわしい素材であるにもかかわらず。
そして これは実話、実話に基づいたフィクションではなく主人公のモリタニア人の手記に基づいて製作された実話シネマだ。
グアンタナモ米軍基地で、9.11テロ容疑者が不当に拘留され拷問による尋問がなされたこと、その事実をアメリカ政府は認めることなく頑なに隠蔽し続けたことは、僕の情報にも入ってはいたが所詮は他国、多民族のことと捨て置いていた。
9.11テロを戦争と喧伝し挙句の果てには他国を蹂躙したアメリカの暴力に、日本も日本人も抵抗できるはずもないと諦めてもいた。
しかしながら、
一歩譲ってこれが戦争だとすれば、日本もかっては法や倫理に悖る犯罪行為を容認していたのだから、他人のことを非難することはできない、いや今後もきっと同じような民族行動をしてしまうのではないかと、他人事は思えず僕は本シネマにどんどん囚われていく。
本シネマは、英国製作、さすがにアメリカではここまでの鋭い批判はできなかっただろう、風格ある大作という形では。
監督は実録物がお得意(だと勝手に思っている)のケビン・マクドナルド、アフリカが抱える苦悩もきちんと押さえていた。
衝撃の尋問・拷問のシークエンスは小さめの画面で再現され、事実認識との差異を象徴的に表現する工夫がされている、わかりやすかった。
タイトルにもなっている米軍に不当拘留・拷問されるモリタニア人を演じたのはたハール・ラヒム(仏)、人権弁護士をジョディ・フォスター(米)、米軍検察官をベネディクト・カンパーバッチ(英)・・・望むべくベスト・キャスティングだった。
不法な拘留・拷問・隠蔽・裁判というキーワードからはシネマの愉しみなど、思いもつかないところ僕を一押ししてくれたのは、ジョディ・フォスターだった、「タクシー・ドライバー」以来お付き合いを続けている(勝手にだけど)。
そして いつのまにか僕はシネマの愉悦に浸っていることに気づく、名作シネマの証だった。
本物語を正義が勝利するおとぎ話にはできなかったのは歴史的事実に拠るからであり、現実はこのように糞溜めだとシネマは主張する。
それでもなお、いやそれだからこそ人間は正しさを求めて闘う、
この物語のように崇高な人間がいることに少しだけ安心した。
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