オーバー・フェンス (2016)

文字数 560文字

【ゆっくりと湧き出る 生きることの喜び】 2016/9/20



周りの人間をぶっ壊してきた悲しみに怠惰な日々を送る男(オダギリ・ジョー 好演)、
自分はぶっ壊れていると知りながらも愛情を探す女(蒼井優 熱演)、
二人の役作りに圧倒される。

一切の愉しみを拒絶してひっそりと職業訓練校に通う男と、
エキセントリックな女との愛の交感がメインストリームになっている。
小さめの画面、函館の裏町、黄昏カラー、古風なシネマ作法の中で、
いたって普通の人間たちが生活していた。
職業訓練校の学生仲間たちがリアリティに溢れている、
まるで本人そのままの出演のようだった。

堅気の生活に縋りつく元ヤクザ、
遊び半分の田舎町シティーボーイ、
暇つぶしの年金老人、
コンプレックスに燃え滾る中卒青年と、
いじめられる不器用大学中退青年、
格好ばかりつける中身の薄い訓練校教員、
こんな仲間たちはどこの町にも、どんな職場にもいる。
みんな気の良い連中なのだが、気持ちの行き違いが必ず生じるのも人間だから。

そんな、人と共生することに抵抗することすらとっくに捨て去った男。
毎日流されていく、そして年取っておっ死んじゃうだけのことよ・・
と嘯く男の眼は不信と倦怠に曇っていた。

あるきっかけで女に自分の過ちを告げられ狼狽する男。
捨てた家族ともう一度向き合う、新しい人生の旅立ちでもあった。

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