その夜の侍 (2012)

文字数 736文字

【大きくて深い哀しみはどうすればいいの?】 2012/11/17



地味だけど良質で、本当のところちょっと実験的なシネマを
シネコンでも観ることができたのが嬉しかった。
・・・というと、前評判イメージどおりの舞台劇シネマ化作品と思われてしまいそうだ。
当然舞台とシネマの作法には大きな谷があるわけだが、
一方では本シネマには舞台の制約から解き放たれた躍動感が感じられる。

その躍動感を冗長と不満に思うか、新鮮な映像と目を見張るかのギャップも、
当然懸念するが、
僕はやはりそこに舞台のルーツを感じ緊張すらしていた。
シネマには無い「何か」がずっと刺激してくれていたようだ。

本年の演技賞を狙いそうな二人(堺さん、山田さん)が対峙するシーンは
ステージやスクリーンすら飛び出すパワーに溢れていて圧巻だった。
恐らく本シネマはこのお二人の演技競演が話題先行になることだろう。
堺さん演ずる壊れかけた男は、自らを犠牲にしてまで復讐を遂げようとしながら、
その行為の無意味を知っている。
最後に再生の決意に到達する「プリンシーン」は忘れることのできないものになりそうだ。

山田さん演ずる更生することの無いチンピラ、でも徹底的悪にもなれない小心者、
その陰に潜む無気力な生き方表現は決して「美味しい役」ではなかったはずだ。
そして、二人にまつわる日常・非日常の人たち、
その人たちの普通の行為が二人の異常さとミックスしていて、
なんら違和感が無い。 僕らの日常はこんな具合に動いているのだなと共感してしまった。

それでは、妻を轢き逃げした男にどんな仕返しをすればいいのだろうか?
そして、どうやって妻の悔しさを償えるのだろうか?
いつか妻のことを忘れることができるのだろうか?

生きていくにはあまりにも哀しみが多すぎる、深すぎる。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み