ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習 (2006)

文字数 1,046文字

【「どうですか?」って訊かれても・・・】 2008/3/3



「どうですか?」と訊かれて答えずらいシネマであることは間違いない。
話は少しづれるが、
この「どうですか?」の問いかけは日常でもよく遭遇する。
単なる儀礼で「最近どうですか?」といわれても「なにがどうなんじゃい!」というわけである。
そんな時僕は3択を逆につき返したい衝動に駆られる、たとえば今日だと・・・
1.防衛省をいじめるのはもうやめたらどうですか?
2.中国産食材に限らず、食の危険はもっとグローバルに考えたらどうですか?
3.「沢尻さんの愛人は香川某だ」という噂はどうですか?
この三つから選びんしゃい、答えてやろうじゃないか・・・てな感じだ。
ちなみにすべてお答えはできないけど。

本シネマの「どうですか?」は単純におばかさんコメディとしてみるか、政治的に受け止めるかという視点差で大きく変わってくる。

キーになるのは賞もらいの主役のサシャ・バロン・コーエン。
ユダヤ人の定義「母親がユダヤ人であること」にパスし、COHENというあまりにもポピュラーな正統ユダヤを象徴する苗字、彼は生粋のユダヤ人。
彼が扮するカザフスタンのTVレポーターは、「おばかさん」などではなく無知無教養なだけの愛すべき人間。こんな人間が、世界にはいっぱいいるのだろうと納得したら、本シネマは政治的ミッションを果たしたことになる。

ユダヤ人への差別、恐怖、それに付随するいわれなき偏見の数々が、シネマ中巧妙に散りばめられている。
カザフスタンにはお気の毒だし、なぜそのお役目がまわってきたのか別に興味はないが、必要だったのは無知な人間としての「ボラット」。
このような無知なるがゆえの偏見がホロコーストにまで行きつく恐怖をグロテスクなユーモアに包んで見せてくれた。

ユダヤ人が、カザフスタン人(再度お気の毒)を演じて、ユダヤ排斥と人種差別の愚行を批判している。ユダヤ社会であるシネマ業界が本シネマに破格の評価をしたのもこれまた不思議なことでもない。

ユダヤ人ボスに仕えたビジネス経験もある身として振り返れば、彼らの信条に学ぶところが多かったし、人間的にも尊敬する方ばかりだった。
しかしである、
ホロコースト以降、過激なシオニズムがビジネス、シネマ分野においても勢力を広げている印象が強い。ユダヤ人迫害の歴史を顧みれば僕などがその論点に意見を持つことなど不適切なのかもしれないが、このような下品なプロパガンダは、かえってユダヤ民族への誤解を増幅するのでは
・・・とちょっと心配したりだった。
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