イントゥ・ザ・ワイルド (2007)

文字数 866文字

【アラスカの壮大な自然に生を託す】 2009/9/6



テーマが壮大であると同時に、
アラスカの自然(ワイルド)が信じられないくらい果てしなく壮大だった。
そのテーマというと、
オープニング前のバイロンの詩に象徴される
「人間よりも自然を愛する人生」をまっとうした青年の生き死にだ。

監督ショーン・ペンは主人公最後の二年間に関わった人々を通して
この若者の壮絶を暖かくも冷静に解きほぐしてくれる。
構成の大筋として、シネマの中で敢えて章立てして明示している。
カジュアルなカットもランダムに散りばめられ、
ふとセルフ撮影ドキュメンタリに接している想いだった。
その章立てとは:
(1)出生  
(2)思春期  
(3)人間らしさ  
(4)家族

主人公の悲劇の要因は出生、両親のトラブルにあることは早めに明らかにされる。
ソローなどの自然啓蒙思想に傾倒した主人公、
頭でっかちな思春期だたことは特に異常に風変わりでもない。
「人間関係より楽しいことはたくさんある」などと頑なになりながらも、
旅の途中では人の温もりに甘える人間らしさも微笑ましい。
「どんな形であろうと幸せを分かち合えるのが家族」ということに気付くのも
反面教師の両親がいればこそ。

そんな家族の大切さに気付いたとき、運命はその暗黒な面を露わにしてくる。
生きる意義を問い、突き詰める若者にあまりにも皮肉な啓示だった。
主人公がワイルドの中で自己を確立していく過程、
その若者の成長を取り巻く厳しい真実のワイルド。
主人公を演じたエミール・ハーシュの体当たり熱演と
数十箇所にも及ぶ北米大陸ロケによって「人間と地球の交感」を見事再現していた。

彼の歓び、哀しみそして畏れすべてが地球の大自然に木霊していた。
主人公がアラスカから戻り、
ヒッピーカップルと再会し、
少女と恋をし、
老人を慰め、
尊敬する先輩と酒を酌み交わし、
その後もしかして両親を赦し甘えることができたらいいな。
僕には彼がいまだにアラスカで(ワイルドで)逞しく生き抜いているように感じられる。

シネマは娯楽であれと常々申し上げてきたが、こんなためになるシネマも大歓迎する。

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