蘇える金狼 (1979)

文字数 768文字

【大藪ワールド合格】 1979/10/21



大藪春彦作品のエッセンスである「現実逃避型コンプレックス解消」タッチがうまく再現されているシーンが2ヵ所ある。
ひとつは見せ場であるアクション。
カメラはず~っと松田優作の動きを手持ちで追っていく、その流れの中ナイフで数人を始末してしまう。
この間の邦画では珍しい緊張感持続は、役者の鍛えぬかれた動きと演出の冴えによるもの。

村川監督と優作のグッドコンビネーションを見せ付けられた。
残念なことに、村川がまたもや大作のプレッシャ-で方向を見失ったなか、それでも「ふてぶてしさ」をキラリと光らせた数少ない収穫のひとつが、この海岸のアクションシーン。

そして、もうひとつが濡れ場。
優作のマッチョ性技は風吹ジュンに触発されたに違いないが、すばらしいベッドシーンだった。
どこか子供っぽいところが残るこの二人が、突然艶かしい、激しいセックスを始めたものだから、正直なとこ度肝を抜かれ座席に沈みっぱなし状態だった。

これは村川監督の秘めた才能なのか? これぞ、大藪春彦の世界だった。
という2点・・・暴力とセックスを大藪春彦原作に忠実に描いたという、ただそれだけの理由で、このシネマに合格点を与えたい。
大藪春彦を多読(たくさん読んだだけ)した僕がそう認めるのだから、大したものと思わなければ。
角川映画ビジネスの過去において、ともすれば映画が原作を超えられなかった事実を考えるとき、ここに松田優作と言う稀有な役者を得た今、新しいハードボイルドシネマ路線が走り出す予兆を感じている。
ただ、もっともっと優作のとぼけた味を強調してもらいたいと希望してやまない。
というのも、ハードボイルドの旗手黒沢年男を継ぐには彼の「寂しさ」に匹敵する、優作だけの特徴が欲しいからだ。

村川透・松田優作コンビの「大藪春彦シリーズ」の定着を期待したい。

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