フロントランナー (2018)

文字数 1,326文字

【職業としての政治】  2019/2/4



問題提起の多いシネマ、蓋し名作,傑作であろう。

物語は1988年大統領選挙における異様な事態を描く、
実話だけにそのインパクトは強烈だった。
とはいえ、日本人として僕はゲーリー・ハート候補の女性スキャンダル、
その後ハート候補の出馬撤退は詳しく知ることもなかった。
もっと言うならば、ハート候補の革新的政策なども知る由もなった。
ケネディの再来と騒がれた人気の片鱗を僕は本シネマで感じ取るのだが、
今更悔やむには到底遅すぎる。

問題提起その一 : 大統領にはプライバシーがないのか?
本シネマでも前面に打ち出しているハート候補の「女性好き」。
ある種の病気のように美女に引き寄せられるハート候補、
このあたりはヒュー・ジャックマンの腕の見せ所でもあった。
ハート候補は、個人のプライバシーとして女性問題について選挙スタッフと議論することさえ厭う。
「ケネディの寝室には女性が毎夜列をなしていた」
・・・という本シネマでの会話を指摘するまでもない、
その後クリントン大統領のスキャンダルがある。
そんなスキャンダルよりも大統領には重要な責務がある…という論理だ。

問題提起その二 : 報道の自由に歯止めはないのか?
ワシントンポスト紙がハート候補の不倫をスクープしたマイアミ・ヘラルド紙を無視する、
節度ある報道が大切だという。
しかし、最後にはゴシップ取材競争に巻き込まれてしまう。
正しく且つ適切なジャーナリズムは成り立つのか?
フェイク・ニュースがネットにあふれる現在ではより切実な問題になってきている。
記者会見会場で報道陣に囲まれるハート候補、
その苦悩の決断をヒュー・ジャックマンは見事に再現した。

問題提起その三 : 理想的政治家とは?
ハート候補の主張は 
「プライベートなスキャンダルで足を引っ張られるようでは政治家になる若者がいなくなる」
極論すると、理想や夢や改革の意思に満ち溢れた政治家志望者などいなくなる、
代わりに分不相応な人物が取って代わる。
政治家は政策と実行力で評価されるべきだ、その他の資質を過小評価してでも。
自分の病的な女好きと政治家の使命を天秤にかけるハート候補、
その苦渋と内なる矛盾をヒュー・ジャックマンが写し出す。

問題提起その四 : 夫婦の絆
ハート候補の大きな見込み違いは、彼のスキャンダルを妻が許さなかったこと。
よくあるシナリオとして仮面の夫婦として良き大統領候補夫人を
演じることがなかったハート夫人。
実際には世論の勢いに押されて立候補を降りたとはいえ、
その後夫人に許しを願って現在に至るまで離婚していないとのこと。
政治家として優秀だったが、女性の地位・権利に関しては時代遅れな考え方だったのか、
それともやはり病気だったのか?
30年間の結婚生活でようやくそのことに気づくハート候補、
ヒュー・ジャックマンの素顔が透けて見えた。

いろいろ考えさせられるテーマの数々だったが、
どうしても現トランプ大統領への批判としか受け取れなかった。
ハート大統領が実現していたらアメリカは輝けるV字復活を成し遂げたかもしれない、
そしてその30年後、
多くの若者を政治不信に陥れるような大統領を生み出したアメリカの罪は大きい。

ヒュー・ジャックマン代表作。
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