誰がため (2008) 

文字数 829文字

【いつまで「血」で決着をつけ続けるのか】 2010/7/10



正義とはなにか?
正義はどこに在るものか?
そもそも正義は存在しうるものなのか?

ナチス軍隊に街、友を蹂躙された復讐として抵抗勢力の「殺し屋」として生涯を終えた
【フラメン】と【シトロン】の悲しくも壮絶な物語だった。
殺しの底にうごめくのは正義を証明する愛国心。

愛国心は裏を返せば「憎敵心」になるのだろうか?
国のために市民が戦うという建前論と、
テロリストとして生身の命を血の臭いのする距離で奪い去る暗殺行為、
この二つは異なるものなのか?
そしてこの政治的暗殺が一人の指揮官の私的利益保護のためだったという
裏切りに決着したとき、
フラメンとシトロンの想い、愛国心だったかもしれない想いは
救済される機会を永遠に失う。

彼らの伝説は現在に至るまで語られること無くひっそりと歴史の闇に葬られていた。
そして今回僕は珍しいデンマークシネマとしてこの禁断のストーリーに接することができた。

そこに見たものは、
「裏切り」の言葉から嗅ぐ媚薬にも似た高揚感でもなく、
「善と悪」の心の迷走でもなく、
「愛国」と「売国」の境界でもなかった。
人間はそれほど単純ではない。
そこに、
ハリウッドソリューションにありがちな明白な対立構図や
爽やかなカタルシスは味わうべくもなった。
おそらく あのときのデンマークはこうだったんだろう。
そして今の世界もさほど変わらないのだろう・・・・と少しだけ気分が落ち込んだ。

いわゆる「二重スパイ」と呼ばれた女性ケティをを愛し信じるフラメンの中に
自分の姿が写っていた。
売国奴を無情に殺し去る人格と、
愛する者の裏切りを信じたくないもう一個の人格との自縄自縛崩壊であった。
愛国心こそナチスに抵抗する「正義」だと信じた若者の無駄死に
祖国デンマークが冷淡だったの宜なるものだ。

愛国心は戦いがあって、戦いを扇動する者がいて、戦いに参加するものがいて実体を持つ。
いつまで人類は「血」で決着をつけたがる習慣を持ち続けるつもりなんだろう。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み