ファミリア (2022) 

文字数 889文字

【人種差別トライアングル】 2023/1/6


役所広司さん主演作品は観賞価値が極めて高い、どうせシネマ観るなら空振りはしたくないお年頃なので近年彼のシネマは無抵抗で拝見している。
そんな勝手な思い込みを外すことなく、本作も一級のエンターテイメントでありメッセージ性も高い優れた仕上がりになっていた、
ただしアンハッピーカタルシスをも作品の情感として受け入れられる根性が必要かもしれない。
物語のベースにあるのは「人種差別」、それも日本独特の陰鬱な暴力を背景に加速されている。
豊田市近郊のブラジル人地区に住む夢をもぎ取られた若者たち、
そんなブラジル人に家族を悪質交通事故で殺されその復讐のためにすべてのブラジル人を憎悪する半グレ頭目、
アルジェリア人妻を伴って帰国した自慢の一人息子から、父の陶芸を継ぎたいと請われ無下に断る父、
この三つの人種トラブルがリンクし合いカタストロフィーに突き進む。

外国人労働者を使い捨てて平気な日本企業、教育の機会も奪われ社会の底辺で喘ぐ若者の閉そく感を日本人は実感することもない、そんなことよりも自分の生活を守ることが精一杯なのだから、と言い訳をしながら。
構造的な人種差別を修正する気持ちもない民間、事なかれ主義の行政、ブラジル人は同じ日本に住む人間なのだけど。
復讐に執着する心の歪みを誰からも、法律からも咎められないダーティ領域に巣くう人間は決して消え去ることはない。
一方で、自らを犠牲にして仲間を助ける心優しい日本人もちゃんといる。
悲劇に囚われて主人公(役所広司)が取った行動、肉を切らせて骨を切る、特段珍しい展開ではないが感動してしまう。

役所さん演じる近年の主人公パターンの一つとすれば納得できる、役所さんありきの企画だったのかもしれない。
「虎狼の血(2018)」、「すばらしき世界(2021)」の延長線上に再び戻ってきた、武骨で単純しかし決して憎めない「男」。
吉沢亮さん、MIYABI さんも同じように近年のイメージを引きずってはいたが、適材適所の好演だった。
なによりも現在進行中の「外国人労働者」問題を身近に手繰り寄せられた、これもシネマのおかげだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み