聖地には蜘蛛が巣を張る (2022)

文字数 678文字

【国家の二面性】 2023/7/6


祖国イランから亡命しグローバルに活動するアリ・アバッシ監督最新作。
同じくイランを離れフランスに拠点を置くザーラ・アミール・エブラヒミが主演する、聖地マシュハドでの娼婦連続殺人事件サスペンスであるが、ことは単純にそれで済むわけではない。

ファクトネスはいかほどかとは思うものの、イランの女性の地位はイスラム教の教えに従うと、あって無きが如くのものだ、本シネマはその一点に絞りひとつの反体制シネマとして完成している。
主な登場人物はアラーの教えに従い聖地に蔓延る娼婦を殺戮することで心の安寧を得るつもりだったが、もはや殺人そのものに快感を覚えるようになってしまったサイコキラー。
一方その事件を取材しようとするフェミニストの女性記者が聖地で経験する宗教価値の強固な壁、聖地にふしだらな女性は不要、抹殺すべきという民衆の声だった。

聖地のサイコキラーはイスラムのヒーローになっていくがこれは一種の群衆ヒステリー現象、だが宗教的基盤で国を動かそうとする国家にしてみれば痛しかゆしの成り行きだった。
シネマは丁寧に娼婦の仕分けをする、貧困のため、無教育のため、ただビジネスのため。
とはいえ、イラン以外で娼婦殺しを容認する国家どこにもない、殺人は最も重い罪なのだから。
宗教で国家を統括するイラン、国民の宗教観を無視できないとはいえ法治国家としての面目もある。
シネマは国家の二面性を鋭く、残酷にさらけ出して見せる。
サスペンスシネマとしては凡庸な出来だが、ここまで国家政策を嘲る姿勢はお見事しか言いようがない。
シネマの力を感じた。
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