アメリカン・スナイパー (2014)

文字数 1,009文字

【心にしみいる哀しみ】 2015/2/21



ほとんどイラク都市部での戦闘シーン、狙撃カットが続くシネマなのに、
哀しみが静かにわき起こってきた。
製作者:ブラッドリー・クーパーの想い、
監督:クリント・イーストウッドの祈りがその哀しみを紡いでいた。


圧巻はラストシーンにおける、主人公の妻タヤの表情、眼差し、
夫の心がようやく回復し、本当に戦場から帰還した喜びの隙間に入り込む不安。
そして死・・・このシーンが本作のすべてを物語っている。

物語は伝説の狙撃手、アメリカ軍狙撃レコード160人以上の
名誉あるシールズ隊員の自伝を映像化したものだ。
少年、青年時代に培われた人生規範も簡潔に語られている・・・
「人間には羊と狼と羊犬の三種類がある、羊犬たれ」との父の教えが、
9.11テロ事件で覚醒する。
羊犬にとって狼は悪党であり、野蛮人であった。
羊を守るための人殺しに疑問などなかったからこそ、
彼は「伝説」になりえたのも一片の真実だ。

しかし、戦友の死や精神の崩壊を目の当たりにし、彼自身もとうとう戦闘神経症になり、
4年間にわたる羊犬の使命を止めることになる。
そして同じような戦闘で心身を負傷した兵士の再生援助活動のさなか、
まさかの患者の手による殺人で命を落とす。
彼の葬儀は、イラク戦争プロバガンダに利用され盛大に大がかりに催される
・・・彼が一番嫌いだった「伝説(レジェンド)」の美名のもとに。
哀しい人生だった。

製作スタッフは、戦争の善悪を問うような姿勢を取らない。
淡々と、兵士の任務遂行とそこから生じる副作用を映像で再現する。
女性や少年に襲撃されるアメリカ軍の苦悩も、
夜中にアメリカ軍に突入されるイラク市民の怯えも同じように描かれる。

「父親たちの星条旗」で政治家、官僚と兵士たちのギャップを描いたクリントは、
今回も少しだけ政治的なニュアンスを見せていた。
名作「スターリングラード」の狙撃手同士の一騎打にも似た設定を、今作にエンターテイメントとして取り込んでいた。
殺人マシーン、シールズの好敵手はオリンピックで金メダルを取ったシリア人。
この二人のお互いの狙撃シーンは全編にわたる戦闘シーンの頂点になっている。
「伝説」を証明した主人公の2km狙撃でシリアのアスリートは戦場の骸となり朽ち果てる。
なぜ、シリア人アスリートがイラクの戦いに身を挺してたのか
・・・2015年時点のイラク戦争後の混沌、
そしてテロ国家の暴虐の芽が見えてくる。

戦争は哀しいもの。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み