ハンニバル・ライジング (2007)

文字数 841文字

【平坦なプロローグ、次回作に期待】 2007/4/22



ミーシャが可愛い、ふっくら頬っぺでおいしそう・・・・・・・・・・冗談です。
冗談でないのが、ミーシャやハンニバルを食べてしまわなければいけなかった、追い詰められた男たちが伝わってこないこと。
誰も最初からカニバリズムに染まってるわけでもなく、いくら悪党共とはいえ、子供に口を、いや手をかけるまでには葛藤がある。
ここの、かなり重要な部分が、淡白に流されてしまっている。

残酷すぎるという理由、また、あまねく観客をターゲットにしたいという理由であろうと推定するが、裏目に出た配慮だ。
ハンニバルの精神面をも包括した出自を描く本作であるならば,全編を通じてもう少し醜悪に陥る勇気が欲しかった。
結局は、復讐物語も薄っぺらい猟奇殺人になってしまう。
そうなんだ、ハンニバルが類稀な知性を有した狂人でありながら、どこか精神のずっと奥底に人間の善を求める可愛そうな人物だという・・・・・・《ライジング》に値するテーマが語られていない。

逆に興味深かったのは、「愛のためのカニバリズム(自己欺瞞でもあるが)」であるとか、「ハンニバルの共犯性」が提示され、唾棄すべき、罪深き行為に大いなる疑問が投げかけられる点である。この正直すぎるほどのリベラルなメッセージで、観客が感じるのは混乱のみ。
ハンニバルは近寄りがたい悪のヒーローなのか? 
単なる精神異常の殺人為なのか?
いうまでもなく僕は、ハンニバルの桁外れの知性と権力に歯向かう悪行にカタルシスを感じて、ここまでついてきたわけだから、
ハンニバルには、極悪ヒーローの威厳すら持って欲しいと切望する。

本当に残念ながら、惜しいけど今回はハンニバルの履歴書を眺めるような起伏のない、事務的な作品になってしまった。次回作のための壮大なプロローグだと好意的に受け止める余裕が、まだ僕には残っている。

ひとつだけお願いできるとすれば、トマス・ハリスは脚本に触らないこと。
いままで愚痴ったことは原作者=脚本家の弊害だと思っている。
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