エル・クラン (2015)

文字数 670文字

【軍政の犯罪】 2016/9/15



1983年 アルゼンチンの軍政粛清に力を尽くしたアルフォンシン大統領時代、時代の流れにに見捨てられた一家の物語だった。

父親アルキメデスの強い統制のもとで「誘拐」を家業とするプッチオ一家。
息子3人娘2人を含め家族全員が少なからず「誘拐ビジネス」の恩恵を蒙っている。
無論、犯罪に対する許容度は一人一人違っているものの敢えて父親に逆らうことができなかった罪は大きい。
ましてや、誘拐した人質を家庭内に監禁していることから見ても、家族の罪は推して知るべしだろう。

シネマでは合計4件の誘拐ビジネスを再現してみせる。
それらはすべて計画性の高い優れた犯罪とはかけ離れた単なる暴力でしかなかった。
当時のアルゼンチン警察の実態など知るすべもないが、こんないい加減な誘拐事件がまかり通るはずもなく、家族は司直の手に落ちる。

そこにこのシネマのメッセージがあった。
この物語の時代は軍事政権による人権無視の逮捕拘禁が日常に行われていたことが、当時の実写フィルムで再現される。その犠牲者は数知れず。
その中に、金銭を目的とした誘拐ビジネスが紛れ込み、それは軍事政権の庇護のもとに黙認されていた。
本シネマの訴求したかったのは、まさに国家による人権無視の犯罪の悲惨さだったのだろう。

シネマの中で父親アルキメデスが、刑務所内の軍高官に面接する際に提示するIDには「軍情報部」の肩書があった。
つまるところ、
本シネマ、一風変わった家族のユニークな誘拐ビジネスの顛末などではなかった。
強権の父親を巡り持った家族の悲劇の裏には国家権力の闇が蠢いていた。
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