アステロイド・シティ (2023)

文字数 1,041文字

【目覚めるの日必要なのは?】 2023/9/5


ウェス・アンダーソン監督・脚本・製作シネマと言えば「グランド・ブタペスト・ホテル(2014)」の予想を裏切るばかりの映像と色彩の変幻自在が強烈な記憶にあるが、本シネマも同様、いやそれ以上の変シネマになっている。

本シネマではシネマの形に徹底してこだわる。
物語りそのものは、1955年 宇宙との遭遇がベースになった群像コメディらしいが、その笑の奥には辛辣な皮肉が仕込まれていて、 心から笑い転げる代物ではない、あまりにも知的なのである、それも相当高級な。
そんな物語を、最初から戯曲であると種明かしし舞台劇の進展がシネマスクリーンに拡大変換される。 つまるところ二段構えの虚構をぼくは覗くことになるが、「第一幕1~3場」のような章立てテロップが流れ、舞台の時はモノクロ、 フューチャーしたスクリーンはカラーと識別できるようなガイダンスが完備されている。 そう、いわゆる普通のシネマ構成ではない。

最初からこのお噺は嘘の塊りですよと言われて、ぼくは奇妙奇天烈な書割セットとVFXの世界に放り込まれる。そこでのお愉しみは ウェス・アンダーソン組と言われる油断ならない俳優たちと新規曲者俳優たちの競演だろう。
「グランド・ブタペスト・ホテル」から引き続き参加しているジェイソン・シュワルツマン、ティルダ・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、エドワード・ノートンに加えて今シネマではスカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、 スティーブ・カレル、マット・ディロン、ジェフリー・ライト、そしてマーゴット・ロビーまでがきちんとした役を貰って演じている。

という紹介では、「なんだ 有名監督の自己満足作に名優たちが義理と名誉のために顔出ししただけだろう」と誤解されそうだが、これ程たくさんの味わい深い俳優たちが、それぞれの個性を短い持ち時間で発揮していたのも監督の腕の見せ所だった。

アステロイド・シティでは毎日核実験が行われその衝撃が響いてくる、そこに現れた宇宙人が伝えたかったものは何だったのか?
「バーベンハイマー」のひとつの昇華回答が隠されていないか?

エンドロールに流れる 「You Can’t Wake Up If You Don’t Fall Asleep」 、シネマの中でも「目覚めるには眠りに落ちること」という言葉が印象的だった。
ぼくはずっと眠らないまま今に至り、何にも目覚めていないのだろうか・・・・ちょっと不安な気持ちになった。
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