カオス・ウォーキング (2021)

文字数 1,067文字

【男たちには耳の痛いことばかり】 (2021・11・17)



質の高いSF物語なのに僕はまるで本原作を知らなかった。
後知恵だが、原作はヤングアダルト向けとして高い評価を得ているとのことを知る。
はて? 本シネマの源流ともなっている「ジェンダー問題提起」は、そうすると、ダグ・リーマン監督の意図的な計らいだったに違いない、原作未読の独断ではあるが。

全編を貫く「SFのお約束」は人類が汚染した地球を捨て移住してきた惑星では、人の思考が周りに全部漏れ出してしまうということだ、ただしそれは男の思考に限ってではあるが。
つまるところ、女性は男性の思っていることを逐一知り得てしまうということである・・・これがどう「ジェンダー問題」に絡まってくるのか?

シネマは男たちだけの集落に生まれた青年が思考をまき散らしながら犬と散歩するシーンから始まる。
先住民との戦争で残酷にも女性はすべて虐殺された結果、彼はその集団の最後の人間になる運命を背負っている・・・そんな思考を「ノイズ」のように吐き出しながら散策する主人公の姿に、僕は新鮮な映像表現を伴ったSFの新形態を予感したものだ。
異常な惑星と女性のいない世界、そんなところに移住宇宙船第二陣が到着、偵察機が不幸にも墜落し、女性の乗員だけが助かる事故が発生する・・・・そう女性が登場する。
この女性を拉致せんとする集団の長、それに抵抗する青年、そこには隠された忌まわしい過去があった。

未知の惑星、そこに住む異形の先住民などというSF伝統的記号に騙されてしまったが、ストーリー展開自体は、ヤングアダルト向けの叙述トリックが施されているにすぎないことがシネマの展開とともに明らかになってくる、その落胆度が軽度なのは、主人公二人が集団から追われ狙われ続けられるからなのだが、この辺りのスピード感あふれる進行はリーマンシネマのセールスポイントだった。

ネタバレに近いが、
誰かの思考が防ぎようもなく相手に聞かれてしまうという状態は、どんなものかという問いかけがある。
それが、もし男性の思考のみがという性差別があったとすれば。
ちょっと昔の話だけど、ミソジニーの決まり文句として・・
「女の考えなど益体もない」というのがあった。  
もし、男の考えることだけが、だだ洩れで女性に聞かれるとしたら?
そんなことに耐えられないミソジニストがいたら?
キーワードは「臆病者」だった。
若い男女に、トム・ホランド(スパイダーマン)とデイジー・リドリー(スター・ウォーズ)を配し、マッチョなリーダーをマッツ・ミケルセン、
未来と過去がせめぎ合っていた。
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