ジェット・ローラー・コースター (1977)

文字数 661文字

【ジョージ・シーガル 独り舞台】 1977/8/20



原題はローラ・コースター、その名の通りのスピードと音響(特設センサラウンド)が話題になっていたが、そこに惹かれた方には不満の残る展開だっただろう。
爆破事件に巻き込まれる一般人にも、捜査する官憲側の人間にもシネマは向き合わない、近年のパニックシネマの構成要件が否定される。
その代わりにジェットー・コースター爆破事件を担当する平凡な施設管理局役人(ジョージ・シーガル)の日常が、事件展開とともに執拗に紹介される。

犯人との奇妙なつながりすら築いてしまう主人公の平凡さが本作一番のエッセンスだった。
FBI捜査官よりも犯人を信じてみたり、離婚した家族を思いやり、禁煙に苦悶する主人公が、アメリカの現実として淡々と映し出される。
豪華な助演人(ヘンリー・フォンダ、リチャード・ウィドマーク、ハリー・ガーディノ)達も、結局ここでは添え物扱いだった。
「タクシードライバー(1976)」がニューヨークの日常と底辺に巣くう男の生活を教えてくれたとすれば、本作は下っ端公務員の孤独を危険なくらい細やかにあぶり出してくれる。

途中いつの間にか、ジェットコースターから関心が離れていく自分がいた。
主人公と犯人、どこにでもいる普通のアメリカ人に知らないうちにがっちりと取り込まれていた。
「狼たちの午後(1975)」で、野次馬の中にアル・パチーノの理解者がいたとしたら、主人公のような男だったに違いないとふと思ったりした。
すべては、ジョージ・シーガルのワンマンフィルムだった。
(記:1977年8月20日)
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