658km、陽子の旅 (2023)

文字数 950文字

【家族の葬儀は大切です】 2023/9/25


熊切和嘉フィルムと確認し、さて菊地凛子さんがどう化けるかなと期待して拝見した。
監督には、「わたしの男(2014)」、「ディアスポリス(2016)」、「武曲MUKOKU(2017)」、「♯マンホール(2023)」でかなり先鋭的シネマを体験させてもらっているだけに期待は大きかった、ただミニシアター系公開という点が少し引っかかってはいた。

主人公のダメダメ女が父の葬儀に親戚に連れ出され、青森に向かう途中ではぐれてしまい、そこから自力でヒッチハイクする、
という荒筋なのだが、賞を頂いたという脚本が無理筋が何筋も見え落ち着かないところに、ヒッチハイクの困難描写が長くてくどかった。
最初 高速道路からスタートするヒッチハイクが北に向かうにつれてローカルな道路端に移り、最後は心優しき地元有志の援助に頼る 形になる。
ヒッチハイク文化のない日本での主人公のご苦労と、そんな中にも一筋の優しさが日本には残っているというメッセージかもしれないが、全編ヒッチハイクがらみのエピソードになっているから当初の違和感が最後まで消え去ることがなかった。

主人公が引きこもり同然の状況からして言語コミュニケーション能力に欠けるという設定は、葬儀に間に合わせたいという彼女の熱が ヒッチハイクさせてもらうために自分を曝け出し想いを伝えることを学ぶというカタルシスに決着させたかったのだろうが、 最初 言葉のない菊池さんが鬼気迫る表情と呼吸だけで間合いを取っていた、このテクニックは結構僕には重たかった。
そう、本シネマは重たいドキュメンタリーの形をとりながら、最後までその装いを変えることはなかった。

ヒッチハイクの車の騒音の中での会話、亡き父の亡霊との会話、同乗させてくれた人からの問いかけ、会話が重要なポイントになっている。
口下手の主人公、北に向かうにつれ訛りがきつくなる、並行してドキュメンタリータッチの映像・音声、受け取り損ねたシーンも少なくなかった。

家族の絆が失われていく日本において葬儀がいかに重要な存在であるか、その点に異論はなかった。父親に化けて出られるのだけは勘弁してほしい。

老婆心:
多才な共演者でにぎやかだったなか、浜野謙太さんがきらりと光っていた。
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