クレイマー、クレイマー (1979) 

文字数 844文字

【本当に泣きたいのは男なんです!】 1980/5/2



アメリカの独善性をみた気がした。
と言っても、このシネマが独善性だということではない。
本シネマにアカデミー賞が与えられたことがそうだと思っている。
今更、ハリウッドの体質云々と、青臭いことを・・・
とも思うが、僕は《地獄の黙示録》に対するアカデミーの評価にどうしても合点がいかない。

アカデミーはどうやら前回の《ディアハンター》授賞で、
ベトナム戦争にけりをつけたと思いたいらしい。
だからこそ、《クレイマー・・・》を新たなアメリカの現代を描く作品と評価した、
その独りよがりにガッカリしている。
こう愚痴を並べるのも、実際に《クレイマー・・・》にも
総合芸術であるシネマとしての完成度に不満があるからだ。
はっきりいえば、アカデミー主要5部門に輝くほどの出来からは程遠いと思っている。

たしかに;
父権回復の深刻なテーマは、見事正攻法で伝わってきた。
ダスティン・ホフマンはその父権を演じきっていた、
子役に食われがちな役柄にもかかわらずにだ。
スクリーンで彼はまたしても走っていた、彼の走る姿はほんとに美しい。
そういえば、ダスティンの役柄そのものが走りっぱなしだったと比喩することもできる。
あおりをくって、メリル・ストリープが内面感情表現に徹していた分、
儲け役だったかもしれない。

そっとわが子を見守る母親なんて設定は、かってアメリカ映画では考えられないものだった。
まるで安手の日本映画を観るように思えたのはちょっと残念だったが。
実はこのあたりの臭さが、僕には耐えられない思いにつながったようだ。
シネマの主眼が子供(ジャスティン・ヘイリー、かわいい)を使った
感情揺さぶりテクニックだったこととあわせて、
どうしてもすんなりとこの親子物語に同調できなかった。

館内(丸ノ内ピカデリー)は、ほぼ女性、そして涙、涙ときた日には、
「何か勘違いしてやしませんか~」って叫びたくなった。
「本当に泣きたいのは男なんです!」
どちらにしても、子供を出しにしたお涙頂戴作品は好きではない。
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