楽園 (2019)

文字数 649文字

【犯罪発生の構造に迫る名作】 2019/10/19



近年クライム小説での新境地が目覚ましい著者吉田修一だからこそ、
さらなる新しい試みに挑戦できた原作「犯罪小説集」の映像化。
すでにシネマ化され大きな話題になった「悪人」、「怒り」においても
犯罪小説としての定説を覆してきた。
「悪人」では犯罪者の心情に間近に迫った。
「怒り」では犯罪者を特定することなく、その動機すら捨て置き、
代わりに犯罪者にコンタクトする一般人の心の奥底に手を伸ばしていた。

そして本作品集は、もう一歩進んで犯罪そのものよりは、
発生の時間軸と人間関係軸を揺れ動かせながら犯罪の構造を見つめようとしていた。

さて、本作はそんな原作の息吹をとらえていたのだろうか?
原作は中編作5作から構成され、
いずれも実際に引き起こされた悲惨な犯罪からインスパイア―され、
吉田ワールドを形成しているが、各作品は互いに関連することはない。

しかし、本シネマはそのうちの2作を結合させた、
想像するに 幾分力仕事だったに違いない。
もし、本シネマから不可解さを嗅ぎ取ってミステリーの熟度を不審に思うことがあれば、
そのせいだろう。

僕は逆に、二つの事件を重層化することによって
犯罪のリアリティをより際立たせたと感じている。
超限界村落の現実、
東京一極化の弊害、
地域における富の格差、
社会的弱者救済の不備、
そして永遠に変わらない人間のエゴ。

佐藤浩市さん、綾野剛さんの壮絶な演技に心打たれる、
杉咲花さん、石橋静河さんの可憐さに心が洗われる、
ドローン映像の美しさに哀しみが一層増した。
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