アイネクライネナハトムジーク (2019)

文字数 670文字

【刈り込み上手な物語】 2019/9/23



伊坂さんの原作は短編連作のなかで多数の人物が絡み合い奇跡のような感動をもたらす仕組みになっている。加えて、10年の時の経過も重要な感動要素になっているものだから、
小説としてはちょっと意地悪で、たびたび頁を前にめくる作業を強いられてしまう。
それは読書のひとつのお楽しみでもあるのだけど、さて、シネマではそうはいかないことが心配だった。

結論から言えば、
それは杞憂だった・・・というか、シネマは破綻なくゆったりと流れていた。
原作では数々に仕掛けられた小さいながら洒落たトリックはその威力を失ってはいたが、物語に混乱することはなかった。
しかしながら、
映像にできる範囲の原作の取捨選択としては成功したが、伊坂ストーリーのファンタジーは捨て去られていた。
いったい本シネマのテーマは何だったのかを改めて考えてみる。
「男女の出逢い」の不思議さを多数サンプルで分析することになっていた、気が付いてみると。
非常識な出会い、感動的な出会い、奇跡の出逢い、初めての出逢いがちりばめられているが、結局はただディスプレイしただけになった。

この「出逢い」をどう評価するかが本シネマの許容尺度になる。
原作に込められたひりひりする切なさ、上質なエスプリを惜しみながらも、
シネマにあった「ほんわかな満足感」に僕は十分に納得していた。

シネマを観返すのは、今ではDVDなどで簡単になっっているが、僕はシネマは一度っきりの映像勝負だと思っている。
だから、前のシーンを見直したいと思うようなシネマにならなかった脚本の成功を潔く称えておきたい。
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