【藪医者放浪記~百拾参~】

文字数 591文字

 炎の灯りとそれを取り巻く闇の中では白は眩しすぎるほどに白かった。

 髑髏。人間の頭骸骨。朽ち果てて、もはやかつて張り付いていたであろう肉や何かはまったくその面影を見せていない。

 茂作とお凉は声を上げた。が、その声は闇の中に飲み込まれる。洞穴の闇に、そしてこころの中の闇に。茂作は完全に腰を抜かしていた。手足だけでなく、目と頬、口が震えていた。お凉は何とか立っているが、顔面が岩にでもなってしまったかのように硬直してしまっていた。何でこんなモノがーーふたりの表情からはそんな声が聞こえて来るようだった。

 それからお凉はふと目線を髑髏から外した。と、突然にハッとした。

「アンタ......!」

 呼ばれて茂作はお凉のほうを見た。お凉は何かを指差した。その指差した先を見る茂作。と、その先にあったのは、そこら中に転がる髑髏の欠片だった。茂作は情けない声を上げた。緊迫した声を漏らすお凉は、口を押さえて声が漏れ出ないようにしていた。

 まるで墓場のようだった。行き場をなくしたモノたちが呻き声を上げながら彷徨う名前のない死人たちの庭のようだった。

「どうして、こんな......」

 お凉がそういう横で、茂作は完全にことばを失っていた。と、突然ーー

「見てしまいましたか」

 声がした。ふたりはハッとして声のしたほうを見た。と、そこには猿田源之助の姿があった。

 源之助の目は完全に死んでいた。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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