【帝王霊~死拾死~】

文字数 1,296文字

 肉は弾け、骨が悲鳴を上げるーーそんな生々しい音が響く。

 だけど、場は非常に白けている。というより、みんな何が起きたのかわからないとでも言わんばかりの表情を浮かべるばかりで、この中でぼく以外、誰ひとりとして今、何が起きているか理解している者はいなかったに違いない。

 その場にへたり込む野崎が左の頬を擦りながら驚愕の表情でぼくのほうを見上げている。だが、その表情も徐々に歪んでいき、目からは涙が溢れ出していく。メイ。野崎の名前を呼ぶ金魚のフンたちはワンテンポ遅れてから野崎を庇い、ぼくのほうをキッと睨み付ける。

「シンゴ......」最初に沈黙を破ったのは田宮だった。「お前、何してんだよ」

「そうだぜ、シンちゃん」辻も続く。「何も殴ることは......」

「そうよ! 女の子を殴るなんて最低......ッ! 最低ッ!」

 野崎にまとわりつく金魚のフンどもがぼくを罵倒する。と、それが合図であったかのように、周りの女子の多くは表層的なことばでぼくのことを罵倒し始める。そこに加わっていなかったのは、泣きじゃくる野崎と呆然とする片山さん、そして、驚きながらも悲しそうに顔を歪める春奈だけだった。

 男子もやっちゃったという顔や野次馬的なにやつき、傍観者として安全圏にいる優越感を伺わせる下品な笑みを携えていた。

 喧騒は巻き起こる。田宮、辻、山路、海野がぼくの肩を押さえる。

「うるせえ」

 ぼくは静かながら、嵐が巻き起こる前のような荒々しさを持つ波のような声でいう。と、いっぺんに静寂が訪れる。金魚のフンがぼくに何かをいおうとしていたが、「あ......?」と威圧すると途端に黙り込む。ぼくは大きくため息をつき、周りの生徒たちを見渡す。ぼくは思わず鼻で笑う。

「下品なクズども。自分は関係ないというのが表情に出ている。無責任。焚き付けるときは焚き付けて、自分が泥を被りそうになったらすぐに無関係を装う。てめえらは所詮火事場でスマホのカメラを回すゴミクズと何ら変わらない。今、このバカ女が片山さんを罵倒し、圧を掛けたのを助けようとしたのが何人いる?......田宮、辻、山路に海野、他にいるか? 誰ひとりとしていねえだろ。どうだよ? あぁ?」

 自然とことばが出てくる。ぼくは一旦口を止めて周りを見る。だが、その中には気まずそうに視線を逸らすヤツに何故か不貞腐れているヤツが殆ど。

「何が、こんなヤツ死ねばいい、だ。テメエ、死にそうになるってどういうことか知らねえだろ。こんな一撃よりずっとキツイ。一発殴られた程度の心身の傷なんかより、はるかに重いんだよ。それとも、お前も死んでみるか?」

 ぼくは野崎の目の前に屈み込む。気づけば、ぼくは笑っている。

「あ? どうだよ。そこのバカな金魚のフンも、傍観してるロクデナシのヤツラも、文句があるなら来いよ。ひとりでもいい、殺してーー」

「シンちゃん......ッ!」そう呼ばれ、ぼくは振り返る。

 春奈だった。

「何だよ」

「立って......」

 ぼくは立つ。少しの間を置いて。何、と訊ねるも、春奈は真剣な表情でぼくを見るばっかりで何もいわない。

 春奈が、ぼくを平手で打った。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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