【帝王霊~漆拾睦~】
文字数 1,084文字
人間の想像力ほど無限大の可能性を秘めていながらも机上の空論しか生まないモノもない。
それは所詮、凡人の抱けるイメージの範囲の狭さというのだろうか。考えてみれぱ考えてみるほどに、そこには置き去りにされて現実の姿があり、それもドンドンと遠退いて行く。気づけば自分は理想という亡霊を追い続けて取り返しのつかない場所まで来てしまっていることも少なくはない。
だが、あたしの勘が外れているようには思えなかった。五村市で寝て川澄市に来るには時間も掛かるのだ。それと同じようにあたしの頭の中で描かれるシナリオには無駄を省くがベストという答えが出ていた。それだけの手間も掛かるというのに、わざわざそんなことをしてまで、こんなことをする必要なんかまったくないだろう。
と、成松が肉体が変わっても変わらない不快な笑い声を上げた。
「随分と考え込んでるな?」成松は完全にあたしのことを舐め腐っていった。「何がそんなに気になる?」
「別に。ただ、アンタさぁ、随分と手間暇かけるタイプなんだね」
その返事の代わりとして、成松は不敵な笑みを携えて、あたしに次のことばをいうように促した。本当に不愉快だったが、あたしはその通りにしてやることにした。
「あたしと詩織をここに運ぶまでにどれくらいの時間と労力とガソリンと費用が掛かったのかね。最近リソースの値上がりが半端じゃないでしょ? もう社長どころかただの生ける屍でしかないんだからさ」
別に面白いことをいったワケでもないのに、成松は笑った。次死ぬ時はきっと笑い死にだろうと思わせるくらいに笑っていたかと思いきや、フッと笑いを抑えてあたしを見た。
「相変わらずのユーモアセンスですね。ほんと思わず笑ってしまいましたよ」
「まったく面白そうに見えないんだけど、お世辞ならもう少し上手くいったら? そんなんでよく取締役なんかやってたね」
「まったく面白いことを仰るモンで」
「『皮肉』って知ってる? 少しはことばの裏にある意味を汲めるようにしたほうがいきよ。だから何年経ってもいい大人なのに中学生みたいなんだよ」
あたしはそろそろウンザリしてきた。ただ縛ってこちらの様子を伺うだけなんて、いくら何でも悪趣味すぎる。
「あのさぁ、いい加減用がないんだったら解放してくんない? あたし、アナタやそこにいる佐野と違って暇じゃないんだよ」
「それはお姉さんのことで、ですか?」
耳を疑った。
「何かいった?」
「いいましたよ。聞き逃したなら、アナタの傍にいる中年の幽霊に訊いてみればいいじゃないですか。確か、高城元警部、でしたっけ?」
霧がサーッと落ちてくるようだった。
【続く】
それは所詮、凡人の抱けるイメージの範囲の狭さというのだろうか。考えてみれぱ考えてみるほどに、そこには置き去りにされて現実の姿があり、それもドンドンと遠退いて行く。気づけば自分は理想という亡霊を追い続けて取り返しのつかない場所まで来てしまっていることも少なくはない。
だが、あたしの勘が外れているようには思えなかった。五村市で寝て川澄市に来るには時間も掛かるのだ。それと同じようにあたしの頭の中で描かれるシナリオには無駄を省くがベストという答えが出ていた。それだけの手間も掛かるというのに、わざわざそんなことをしてまで、こんなことをする必要なんかまったくないだろう。
と、成松が肉体が変わっても変わらない不快な笑い声を上げた。
「随分と考え込んでるな?」成松は完全にあたしのことを舐め腐っていった。「何がそんなに気になる?」
「別に。ただ、アンタさぁ、随分と手間暇かけるタイプなんだね」
その返事の代わりとして、成松は不敵な笑みを携えて、あたしに次のことばをいうように促した。本当に不愉快だったが、あたしはその通りにしてやることにした。
「あたしと詩織をここに運ぶまでにどれくらいの時間と労力とガソリンと費用が掛かったのかね。最近リソースの値上がりが半端じゃないでしょ? もう社長どころかただの生ける屍でしかないんだからさ」
別に面白いことをいったワケでもないのに、成松は笑った。次死ぬ時はきっと笑い死にだろうと思わせるくらいに笑っていたかと思いきや、フッと笑いを抑えてあたしを見た。
「相変わらずのユーモアセンスですね。ほんと思わず笑ってしまいましたよ」
「まったく面白そうに見えないんだけど、お世辞ならもう少し上手くいったら? そんなんでよく取締役なんかやってたね」
「まったく面白いことを仰るモンで」
「『皮肉』って知ってる? 少しはことばの裏にある意味を汲めるようにしたほうがいきよ。だから何年経ってもいい大人なのに中学生みたいなんだよ」
あたしはそろそろウンザリしてきた。ただ縛ってこちらの様子を伺うだけなんて、いくら何でも悪趣味すぎる。
「あのさぁ、いい加減用がないんだったら解放してくんない? あたし、アナタやそこにいる佐野と違って暇じゃないんだよ」
「それはお姉さんのことで、ですか?」
耳を疑った。
「何かいった?」
「いいましたよ。聞き逃したなら、アナタの傍にいる中年の幽霊に訊いてみればいいじゃないですか。確か、高城元警部、でしたっけ?」
霧がサーッと落ちてくるようだった。
【続く】