【藪医者放浪記~玖拾弐~】
文字数 635文字
探すといってもこれといって意味のある行為でないのは茂作もわかっていたはずだった。
だが、喧騒にまみれた中庭を退くと茂作はホッと溜め息をついた。茂作としてもあの息苦しい雰囲気に耐え難いモノを感じていたのだろう。屋敷の内部全体がもはやメチャクチャになっていたとはいえ、やはり屋敷の主が完全にお手上げ状態の絶望的な雰囲気が漂っている空気よりはマシだった。
にしても、あのふたりは何処へ行ってしまったのか。確かに茂作が医者でないことはあのふたりにはバレてしまっている。だからといって出来ることなどもはやないはず。
と、突然に茂作は尿意を感じた。恐らく、あの緊迫した空気の中でそれどころではなく、気が緩んだこともあって急に尿意を催したのだろう。茂作は縁側をせわしく走る女給に声を掛けて厠の場所を訊ねると、いわれた場所まで急いだ。
厠に入ると色んなモノが一気に弛んでいくようだった。久しぶりの緩和。これ以上の極楽はないというとウソにはなるが、随分と気が楽になる気はしたはずだ。
と、変な音がした。
茂作は一瞬気を張ったが、すぐに気のせいかとまた気を弛ませた。が、また音はした。耳を澄ませてみた。
どうやらとなりの部屋から聴こえるらしい。泥棒? 火事場泥棒とはよくいったモノだが、こういう混乱している場面を狙ってモノ盗りするヤツがこんなところにも出るのか、と茂作も表情を歪めていた。
茂作は厠を出るとそのままとなりの部屋の障子にゆっくり手を掛けた。
勢いよく障子を引いた。
【続く】
だが、喧騒にまみれた中庭を退くと茂作はホッと溜め息をついた。茂作としてもあの息苦しい雰囲気に耐え難いモノを感じていたのだろう。屋敷の内部全体がもはやメチャクチャになっていたとはいえ、やはり屋敷の主が完全にお手上げ状態の絶望的な雰囲気が漂っている空気よりはマシだった。
にしても、あのふたりは何処へ行ってしまったのか。確かに茂作が医者でないことはあのふたりにはバレてしまっている。だからといって出来ることなどもはやないはず。
と、突然に茂作は尿意を感じた。恐らく、あの緊迫した空気の中でそれどころではなく、気が緩んだこともあって急に尿意を催したのだろう。茂作は縁側をせわしく走る女給に声を掛けて厠の場所を訊ねると、いわれた場所まで急いだ。
厠に入ると色んなモノが一気に弛んでいくようだった。久しぶりの緩和。これ以上の極楽はないというとウソにはなるが、随分と気が楽になる気はしたはずだ。
と、変な音がした。
茂作は一瞬気を張ったが、すぐに気のせいかとまた気を弛ませた。が、また音はした。耳を澄ませてみた。
どうやらとなりの部屋から聴こえるらしい。泥棒? 火事場泥棒とはよくいったモノだが、こういう混乱している場面を狙ってモノ盗りするヤツがこんなところにも出るのか、と茂作も表情を歪めていた。
茂作は厠を出るとそのままとなりの部屋の障子にゆっくり手を掛けた。
勢いよく障子を引いた。
【続く】