【帝王霊~漆拾参~】
文字数 1,099文字
驚きでワケがわからなくなっていた。
あたしに守護霊がいる?ーーしかし、誰だろう。有り得るとしたら、既に亡くなっている武井の姓を持つ父か、長谷川の姓に戻した母のどちらかだろう。
ただ、あたしが詩織から聴いた限りでは、この世に留まる霊というのは、この世に強い念を抱き留まり続けている者だということだ。もし、あたしの守護霊があたしの両親のどちらか、或いはその両方だとしたら、あたしは親を死んでも尚心配させ続けている親不孝者ということになってしまう。そう考えると、両親に見守られているというのは嬉しい反面申しワケがない気持ちがあってちょっと複雑な気分ではあった。
「その守護霊ってさーー」あたしは詩織に訊ねた。「ひとり? ふたり?」
「ひとりだよ」
詩織は即答した。その答えはあたしにとって、ホッとするモノでありながら、ちょっと残念なモノでもあった。少なくとも両親の内どちらかは普通に成仏している。それで全然いいのだが、まるでそれは同時に見捨てられたようにも思えるから困ったモノだ。
別に両親からの愛情が不足していたり、飢えていたりもしなかった。両親が離婚したのはあたしとヤエが中学生という多感な時期ではあったとはいえ、母に引き取られて川澄を離れ県外へと引っ越したヤエは父に、父に引き取られたあたしは母に自由に会う機会を与えられていたからだ。
両親は互いに互いを憎み合ってはいなかった。だが、生活のリズムだったり擦れ違うことが多くなり過ぎたせいで婚姻関係を解除しただけで、離婚後は何だかんだ良好な関係を築いていたし、心労で倒れ、早くに亡くなった母の最期を看取ったのは皮肉なことに離婚した元旦那であるあたしの父だった。
その後、ヤエは母方の実家に引き取られて高校、大学と順調に進学し、かつての故郷である川澄へと戻り、学校を転々としながら、現在は母校である川澄第三中学校にて教鞭を取っている。そして、恐らくはかつて自分が仕事を請け負っていた生活安全委員の担当になっていることだろうーー
反対にあたしは大学卒業前まで父と共に川澄で暮らし、父と同じ警察官を志していた。だが、卒業前に父は殉職してしまい、あたしはヤエに断りを入れて家を売り払い、五村へと移った。幸い、後は試験は合格済みで、後は警察学校へ入るだけだったこともあって苦労はなかった。それに父の遺産のお陰で特に金銭面で苦労することもなかった。ほんと、父には感謝することばかりだ。
もし、今あたしのことを守ってくれている守護霊が父ならば、ひとことでいい。お礼がいいたかった。あたしは訊ねた。
「その守護霊は男? 女?」
「男の人だよ」
あたしは確信した。
【続く】
あたしに守護霊がいる?ーーしかし、誰だろう。有り得るとしたら、既に亡くなっている武井の姓を持つ父か、長谷川の姓に戻した母のどちらかだろう。
ただ、あたしが詩織から聴いた限りでは、この世に留まる霊というのは、この世に強い念を抱き留まり続けている者だということだ。もし、あたしの守護霊があたしの両親のどちらか、或いはその両方だとしたら、あたしは親を死んでも尚心配させ続けている親不孝者ということになってしまう。そう考えると、両親に見守られているというのは嬉しい反面申しワケがない気持ちがあってちょっと複雑な気分ではあった。
「その守護霊ってさーー」あたしは詩織に訊ねた。「ひとり? ふたり?」
「ひとりだよ」
詩織は即答した。その答えはあたしにとって、ホッとするモノでありながら、ちょっと残念なモノでもあった。少なくとも両親の内どちらかは普通に成仏している。それで全然いいのだが、まるでそれは同時に見捨てられたようにも思えるから困ったモノだ。
別に両親からの愛情が不足していたり、飢えていたりもしなかった。両親が離婚したのはあたしとヤエが中学生という多感な時期ではあったとはいえ、母に引き取られて川澄を離れ県外へと引っ越したヤエは父に、父に引き取られたあたしは母に自由に会う機会を与えられていたからだ。
両親は互いに互いを憎み合ってはいなかった。だが、生活のリズムだったり擦れ違うことが多くなり過ぎたせいで婚姻関係を解除しただけで、離婚後は何だかんだ良好な関係を築いていたし、心労で倒れ、早くに亡くなった母の最期を看取ったのは皮肉なことに離婚した元旦那であるあたしの父だった。
その後、ヤエは母方の実家に引き取られて高校、大学と順調に進学し、かつての故郷である川澄へと戻り、学校を転々としながら、現在は母校である川澄第三中学校にて教鞭を取っている。そして、恐らくはかつて自分が仕事を請け負っていた生活安全委員の担当になっていることだろうーー
反対にあたしは大学卒業前まで父と共に川澄で暮らし、父と同じ警察官を志していた。だが、卒業前に父は殉職してしまい、あたしはヤエに断りを入れて家を売り払い、五村へと移った。幸い、後は試験は合格済みで、後は警察学校へ入るだけだったこともあって苦労はなかった。それに父の遺産のお陰で特に金銭面で苦労することもなかった。ほんと、父には感謝することばかりだ。
もし、今あたしのことを守ってくれている守護霊が父ならば、ひとことでいい。お礼がいいたかった。あたしは訊ねた。
「その守護霊は男? 女?」
「男の人だよ」
あたしは確信した。
【続く】