【一年三組の帝王~四~】
文字数 1,201文字
大ボスの風格が漂う人っていうのはそうそういない。
当たり前だ。誰もがそうなってしまえば、それはもはやこの世の終わり。まるで世紀末とでもいわんばかりの荒廃した世界でもなければそうはならないだろう。というかそもそも、それだけの風格を持てる人間っていうのは限られていると思うのだ。人にはやはり小者と大物がいる。そして、たくさんの前者や平凡な人に混じって、たったひと握りの後者が存在する。まだ13年程度しか生きていないとはいえ、ぼくにもそういうことはわかっていた。
ギロリとナイフの切っ先のような鋭い視線が、ぼくのほうへと向けられた。突然現れた女子。一見すると冴えないーー本当に冴えない。
身長は大して大きくない。多分、下手したら150センチもないくらいかもしれない。殆ど手入れされていないいような真っ黒な髪の毛はボサボサで、まるでジャングルにはえたツタのように無作法に伸びきっていた。体型はややぽっちゃりといったところだろうか、少なくとも痩せているとはいえない。制服も着こなしは野暮ったいというか、変な堅苦しさを感じさせる。口はおちょぼ口と形容しても大袈裟でないくらいに小さく、鼻はややお団子のような丸みがあり、やたらとフレームのでかい黒渕のメガネの奥には、カッターで切り込みを入れたような細く鋭い切れ長の目が光っている。
そう、一見すると全然冴えないのだ。だが、その身体に纏っているオーラというか、雰囲気は普通の人間の持つそれとはどこか異なっていた。具体的にどうなのかはことばにしづらいけど、何というか目をつけられると寒気がするような、そんな感じだった。蛇に睨まれたカエル、そんな感じ。
「何してる」
その地味だが雰囲気のある女子がいった。予想通りというか、厳しさと冷たさが共同生活しているような、そんな声だった。彼女の登場によってその場にいた女子たちは、彼女に「岩浪先輩」と呼び掛けて事情を説明した。
先輩。そうか、先輩か。この異様な雰囲気は先輩の風格というヤツなのだろうか。いったんは自分をそう納得させようとしたが、やはり彼女の纏っている雰囲気はそんな安っぽいモノとは異なっていると思った。
ぼくは咄嗟に弁解しようとした。だが、その前に岩浪先輩が口を開いた。
「本当か? 林崎がそんなことするとは思えないぞ」
ぼくは思わず、謝罪のことばを口にしたが、すぐに可笑しなことに気づいた。
何でぼくの名前を知っているんだ?
ぼくは岩浪先輩の顔をマジマジと見た。まず名前だが、まったく覚えはない。小学校や幼稚園でも聞いたことのない名前だ。見た目に関していえば、こういった感じの人は結構見たことがあるにはある。だが、サンプルが多すぎて誰とは特定出来ない。ぼくはうっすらと口を開こうとしたが、いずみが先に訊ねた。
「先輩、コイツのこと知ってるんですか?」
岩浪先輩は相変わらず氷のような冷たい表情のままだった。
【続く】
当たり前だ。誰もがそうなってしまえば、それはもはやこの世の終わり。まるで世紀末とでもいわんばかりの荒廃した世界でもなければそうはならないだろう。というかそもそも、それだけの風格を持てる人間っていうのは限られていると思うのだ。人にはやはり小者と大物がいる。そして、たくさんの前者や平凡な人に混じって、たったひと握りの後者が存在する。まだ13年程度しか生きていないとはいえ、ぼくにもそういうことはわかっていた。
ギロリとナイフの切っ先のような鋭い視線が、ぼくのほうへと向けられた。突然現れた女子。一見すると冴えないーー本当に冴えない。
身長は大して大きくない。多分、下手したら150センチもないくらいかもしれない。殆ど手入れされていないいような真っ黒な髪の毛はボサボサで、まるでジャングルにはえたツタのように無作法に伸びきっていた。体型はややぽっちゃりといったところだろうか、少なくとも痩せているとはいえない。制服も着こなしは野暮ったいというか、変な堅苦しさを感じさせる。口はおちょぼ口と形容しても大袈裟でないくらいに小さく、鼻はややお団子のような丸みがあり、やたらとフレームのでかい黒渕のメガネの奥には、カッターで切り込みを入れたような細く鋭い切れ長の目が光っている。
そう、一見すると全然冴えないのだ。だが、その身体に纏っているオーラというか、雰囲気は普通の人間の持つそれとはどこか異なっていた。具体的にどうなのかはことばにしづらいけど、何というか目をつけられると寒気がするような、そんな感じだった。蛇に睨まれたカエル、そんな感じ。
「何してる」
その地味だが雰囲気のある女子がいった。予想通りというか、厳しさと冷たさが共同生活しているような、そんな声だった。彼女の登場によってその場にいた女子たちは、彼女に「岩浪先輩」と呼び掛けて事情を説明した。
先輩。そうか、先輩か。この異様な雰囲気は先輩の風格というヤツなのだろうか。いったんは自分をそう納得させようとしたが、やはり彼女の纏っている雰囲気はそんな安っぽいモノとは異なっていると思った。
ぼくは咄嗟に弁解しようとした。だが、その前に岩浪先輩が口を開いた。
「本当か? 林崎がそんなことするとは思えないぞ」
ぼくは思わず、謝罪のことばを口にしたが、すぐに可笑しなことに気づいた。
何でぼくの名前を知っているんだ?
ぼくは岩浪先輩の顔をマジマジと見た。まず名前だが、まったく覚えはない。小学校や幼稚園でも聞いたことのない名前だ。見た目に関していえば、こういった感じの人は結構見たことがあるにはある。だが、サンプルが多すぎて誰とは特定出来ない。ぼくはうっすらと口を開こうとしたが、いずみが先に訊ねた。
「先輩、コイツのこと知ってるんですか?」
岩浪先輩は相変わらず氷のような冷たい表情のままだった。
【続く】