【オオカミ少年、コヨーテに吠える】

文字数 3,317文字

 ウソをつくのは良くないことだと思うのだ。

 そもそも、人を欺くこと自体良くないし、何よりもウソは自分の足場を狭めて行くだけだから、つくことに何の利点もない。

 ウソをつけば、そのウソの整合性を取るためにまた更なるウソをつかなければならなくなる。そうなると、もはや無限回廊。行き場のない袋小路は存在しても、ウソに終わりはない。

 況してや、そのウソがバレてしまった時は目も当てられない。何故、真実を話さないのか。周りの冷めた目がウソつきにそう語る。

 また、ウソにはいくつか種類がある。その代表的なひとつが、保身のためにつくウソだ。

 まぁ、その保身のためのウソが一度ならまだしも、残念なことにウソというのはクセになる。一度誤魔化しが利いてしまえば、何とかなるといい気になって、また保身のためのウソをつく。その先に待っているのは、淀んだ沼の底だけ。ウソを止めない限り、まず、まともな先行きは見えてこない。

 またあるいは劣等感と自己顕示欲から来るウソもある。いうなれば、自分を大きく見せようとするウソというヤツだ。

 これに関しては説明するまでもないけど、敢えて例えるなら、自称極真空手世界チャンピオンだとか、自称世界数学マエストロとか、友人の友人がアルカイダとかそんな感じだ。最後のはシンプルに誰も得しないだろうに。

 そんな風に自分を大きく見せたって、称賛してくれるヤツなんて殆どいないし、そんなことで称賛するヤツなんて、とんでもないバカか、もっとイカれたウソを引き出さんとする蛇ぐらいだ。

 そう考えると、ウソをつくなんて、まったく合理的じゃないし、むしろ何か自分に落ち度があった場合は正直に話したほうが好感度は圧倒的によくなることを考えると、全然価値がないことと思える。

 とはいえ、かくいうおれも、随分とウソをつくのだけど、ただ基本的に自分を大きく見せるウソというのは好きじゃない。

 理由は、誰も得しないし、バレた時のことを想定すると、ある程度は正直でいたほうが圧倒的に有利だと思うからだ。

 ただ、他人のことを大きく見せるウソはつきがちだ。それも、荒唐無稽でウソ丸出しな下らないウソばかり。例えるなら、

「アイツは昔、邪馬台国の王だった」

 とか、

「彼は、父親がムジャハディーンのボスで、母親が元KGBのナンバーワン・エージェント」

 だとか、

「彼は飛行機の墜落をマーシャルアーツを駆使して食い止めた」

 とか、

「織田信長を暗殺して明智に罪を擦り付けた上に、千利休を操って間接的に秀吉を操り、後に徳川に取り入り、大阪夏の陣において、たったひとりで豊臣軍をマーシャルアーツを駆使して全滅させた」

 とかそんな感じだ。

 どれもシンプルに荒唐無稽だし、こんな下らないウソを信じるイカれたバカはまず存在しない。では、何でこんな意味の不明なウソをつくかというと、特に理由はない。

 そもそも、ここまで意味不明なら信じる人もいないし、誇大妄想的なウソを押し付けられた側も馬鹿バカしくて鼻で笑ってあしらってくれる。だからこそ、いいのだ。

 だが、問題はやはり、それを真実として騙るウソだと思うのだーーさて、今日はそんな話。

 あれは数年前のことだった。

 その日は『ブラスト』の稽古の後で、アフターが終了し、たけしさんと飲み直そうということで、『M-29』で飲んでいたのだ。

 まぁ、久しぶりに名前が出たんで説明しておくと、『M-29』はおれの行きつけだったバーだ。今はウイルスのこともあって行っていないけど、それまではそれこそ毎週通うほどによく行っていた。

 ちなみに過去のシナリオで出て来た『M-29』は、そのバーを元にしたモンだ。

 そんな感じで、たけしさんとマスターのケイさんと駄弁りながらカクテルを呷っていたのだけど、そんな中、一本の電話が掛かって来た。

 電話の主は『ソレガシ』という『ブラスト』の関係者だった。年齢はおれのふたつ下で、フェミニンな見た目が特徴的な男だった。

 まぁ、そんなソレガシから電話が掛かってきたので、その場で通話ボタンをスライドし、

「どうしたの?」おれは訊ねた。

「あ、すいません。ちょっと変わります」

 何に、って感じだったけど、次の瞬間ーー

「お電話変わりました。◯◯警察の者ですが」

 はぁ?

 もうワケがわからんかったよな。何で突然警察が電話に出るのか理解不能。いくら性格悪いからって、おれは犯罪者じゃないからな。

 そんな感じで警察がおれなんかに何の用があるのかわからず、用件を訊いたのだけどーー

 ソレガシが任意同行中とのことだった。

 もはや混乱もいいところだよな。まったく以て状況がわからなかったので、事情を整理するためにどういうことか警察官に訊ねたのだけど、何でも、ソレガシは都内のとある駐車場にて、車内で睡眠を取っていたらしい。で、警察官に職務質問され、車内を見せたところ、

 木刀と模擬刀が見つかったとのことだった。

 まぁ、この木刀と模擬刀は殺陣で使うモノだって、おれもわかっていたんだけど、何で殺陣の関係ない日にそんなモノを積んでいるのか、と正直ワケがわからなかった。

「そうなんですよ。ほら、明日、天皇陛下の就任セレモニーがあるでしょう。それで、特に厳重に見回りをしていましてね」

 なるほど。そう、この時は令和天皇の就任セレモニーを翌日に控えていたのだ。そりゃ警察もナーバスになるだろう。

「それで申し訳ないのですが、本日の◯時頃は何をされていたか、教えて頂けないでしょうか?」

 おれは正直にブラストという劇団で芝居の稽古をしていたといった。するとーー

「その稽古はどちらで?」

 これも正直に五村市の市民センターで、と。が、そう答えると警察官はーー

「そう、ですか。わかりました。彼がいうには、今日は都内で殺陣の稽古があったとかで。で、指導者として活動していたのがアナタで、一緒にいたとのことなのですが」

 はぁ?

 まったく以てワケがわからなかった。

 まず、ここにふたつの大きなウソがある。

 ひとつはこの日が都内で殺陣の稽古だったということだ。おれとソレガシは同じ殺陣のサークルに所属しているのだが、実際の稽古日は翌日だった。しかも、稽古場は五村市内なので、そもそも都内ではない。

 そして、ふたつ目のウソ。おれがその殺陣サークルの代表として活動しているということだ。これはシンプルに大ウソ。おれは殺陣をつけることがあるだけで、代表ではない。しかもこの日、ソレガシはブラストの稽古には出ていないしな。つまりーー

 ソレガシは純度100%のウソをついているということだ。

「はぁ、あの、今日は劇団のほうの稽古で、殺陣の稽古は明日ですね。ちなみに、自分は代表ではないですし、今日は彼に会ってませんね」

 そういうと、警察官はうなった。

「……わかりました」

 まぁ、多分、ソレガシはおれに話を合わせて欲しかったんだろうけど、言質を取られている今、証言を変えることは不可能。

 それから警察官は、改めて確認を取るから、また電話するといって、電話を切った。

「何だったの?」たけしさんがいう。

「警察からです。ソレガシがーー」

 おれはたけしさんに詳細を伝えた。すると、たけしさんはそちらの警察署のほうへと電話を掛けたのだ。というのも、たけしさんの身内に警察に顔の利く人がいるからとのことだったのだが、それも上手くいかず。

 それから数十分後、警察から電話が掛かってきたのだけど、

 やはり、ソレガシはウソをついていたとのことだった。

 まったく、何をやってんだか。しかも、ウソをついた理由というのがーー

 早く帰りたかったから、らしい。

 うん。普通の大人は警察官に対してウソはつかないモノなんだよ。それに、早く帰りたかったら、逆に正直に話すモノなんだよ。

 それから警察官から、もう少し本人から話を訊くといわれ、ご協力ありがとうございましたと電話を切られたのだった。

 その後、ソレガシに会った時に事情を訊いたのだけど、ウソをついたことでメチャクチャ怒られたらしい。そんなの当たり前だろうに。

 ウソで塗り固めるのも辛いモンだよな。やっぱ、正直に生きるのが一番だと思うよ。

 アスタラビスタ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み