【ナナフシギ~睦拾参~】
文字数 1,058文字
気のせいというのは誰にでも起こり得ることだ。
それは極度に気が張っている状態、或いは極度に気が弛んでいる状態にこそ起こりがちだ。前者でいえば、神経を尖らせているせいで、注意力が極端に行き過ぎてしまい、ありもしないこともあったかのように感じられてしまうようなことだろう。後者は逆にまったく集中していないがために、自分のことでないことを自分のことだと感じてしまうことがそうだといえる。
とまぁ、こうふたつのシチュエーションを比べてみると、一方は実際にあるモノを自分のことだと勘違いしてしまうことであるが、もう一方に関しては、そもそもありもしないモノをあると感じてしまうという、非常に危険なモノとなっている。
とはいえ、気が張っているからこそ、ちょっとした物音ですら、そういった風に聴こえるということも全然ある話ではあるので、すべてがすべて、まったくの無から音が聴こえるなんてことでもなかったりする。
では、この少年の場合はーー
弓永リュウという少年は一見すると何もかもに対して適当で、何かに真剣になったことなどないのだろうと思えるほどだ。だが、そんな彼はすべてに対して適当なのではなく、その逆。一点に集中するのではなく、集中する場所を色んな場所へと振り分けている。だからこそ、色んなところに注意が向く。そういう意味でいえばーー
「マジで何も聴こえなかったのか?」
弓永が訊ねるも、森永と石川先生は互いに顔を見合わせた後に首を横に振るのみ。弓永の顔に焦りの色が浮かぶ。
「マジかよ......、じゃああれは......」
「何かあったのかよ?」
森永が訊ねると、弓永は振り返ることもなくいった。
「プールで何も聴こえなかったのか」
それは訊ねるというよりも、殆どひとりごとのようだった。再び森永と石川先生は顔を見合わせたが、ふたりとも弓永のいっていることにこころ当りがないといった様子だった。
「何も、聴こえなかったぞ」
「おれには聴こえた」
「だから、何が?」
「祐太朗の声だよ」弓永は自分のいっていることが本当に正しかったのか振り返るようにいった。「プールから出ようとしたところで、祐太朗から『霊は退治した。弟と妹が校庭に来てる。一年の昇降口のところから外に出るから来てくれ』って声がした」
「はぁ?」森永は信じられないといった様子だった。「お前、怖くてどうかしちまったんじゃねえか?」
「いや、祐太朗はそういうヤツなんだよ。あの野郎、どういうワケか遠くから人に声を飛ばすことが出来るんだ」
そういうと、弓永は説明を始めたーー
【続く】
それは極度に気が張っている状態、或いは極度に気が弛んでいる状態にこそ起こりがちだ。前者でいえば、神経を尖らせているせいで、注意力が極端に行き過ぎてしまい、ありもしないこともあったかのように感じられてしまうようなことだろう。後者は逆にまったく集中していないがために、自分のことでないことを自分のことだと感じてしまうことがそうだといえる。
とまぁ、こうふたつのシチュエーションを比べてみると、一方は実際にあるモノを自分のことだと勘違いしてしまうことであるが、もう一方に関しては、そもそもありもしないモノをあると感じてしまうという、非常に危険なモノとなっている。
とはいえ、気が張っているからこそ、ちょっとした物音ですら、そういった風に聴こえるということも全然ある話ではあるので、すべてがすべて、まったくの無から音が聴こえるなんてことでもなかったりする。
では、この少年の場合はーー
弓永リュウという少年は一見すると何もかもに対して適当で、何かに真剣になったことなどないのだろうと思えるほどだ。だが、そんな彼はすべてに対して適当なのではなく、その逆。一点に集中するのではなく、集中する場所を色んな場所へと振り分けている。だからこそ、色んなところに注意が向く。そういう意味でいえばーー
「マジで何も聴こえなかったのか?」
弓永が訊ねるも、森永と石川先生は互いに顔を見合わせた後に首を横に振るのみ。弓永の顔に焦りの色が浮かぶ。
「マジかよ......、じゃああれは......」
「何かあったのかよ?」
森永が訊ねると、弓永は振り返ることもなくいった。
「プールで何も聴こえなかったのか」
それは訊ねるというよりも、殆どひとりごとのようだった。再び森永と石川先生は顔を見合わせたが、ふたりとも弓永のいっていることにこころ当りがないといった様子だった。
「何も、聴こえなかったぞ」
「おれには聴こえた」
「だから、何が?」
「祐太朗の声だよ」弓永は自分のいっていることが本当に正しかったのか振り返るようにいった。「プールから出ようとしたところで、祐太朗から『霊は退治した。弟と妹が校庭に来てる。一年の昇降口のところから外に出るから来てくれ』って声がした」
「はぁ?」森永は信じられないといった様子だった。「お前、怖くてどうかしちまったんじゃねえか?」
「いや、祐太朗はそういうヤツなんだよ。あの野郎、どういうワケか遠くから人に声を飛ばすことが出来るんだ」
そういうと、弓永は説明を始めたーー
【続く】