【ナナフシギ~参拾壱~】
文字数 1,052文字
まるで壊れた人形がそこにいるようだった。
鮫島ーー弓永と森永、ふたりの前に先に夜の学校へと侵入していた同級生が現れた。森永はうなだれて座る鮫島を前にして涙ぐんでいた。
「無事だったんだな!」
声を上げて鮫島のほうへと寄って行く森永。だが、弓永は目を細めて鮫島のことを険しい表情で眺めていた。そんなことにはお構いなしに、
「良かった、良かった」そういって森永はうずくまっている鮫島の身体を擦っていた。「どうなるかと思ってた。おれはたまたま弓永たちに助けられたからいいけどさ。さぁ、早く外に出ようぜ。清水は何処にいるんだよ?」
その時、弓永が空気を裂くような大きな声で森永のことを呼んだ。森永が振り返ると、弓永は何か怒りを宿したような表情を浮かべていた。
「......どうしたんだよ?」と森永。「やっと鮫島を見つけたんだぜ? あとは清水と石川先生を見つければ、ここからーー」
「ソイツ、本当に鮫島か?」
弓永のことばに唖然とし、森永はゆっくりと鮫島のほうを見返した。一見しても、よく見てもそれは級友である鮫島だった。森永はフフッと笑って見せ、再び弓永のほうを見た。
「お前、どうしちゃったんだよ。緊張し過ぎて色んなことが信用できなくなってんじゃんか。大丈夫だよ、ほらーー」
ことばの途中で森永は鮫島のほうを見た。
突然、鮫島は顔を上げた。
森永は声を上げてうしろに尻餅をつくと、そのままうしろへジリジリと下がって行った。
「だからいっただろ、下手に近づくな」
いつも余裕が溢れている弓永のことばに緊張が宿っていた。それもそうだろう。目の前にいる鮫島。その顔は、目が飛び出さんほどに見開いて、口が裂けんほど大きく微笑み、その端々からヨダレが垂れていた。まず、普通の状態ではなかった。
「鮫島、どうしたんだよ?」
森永は声を震わした。その疑問に答えるように、弓永はことばのバトンを継いだ。
「これが本物の鮫島だと思うのか?」
森永はハッとしていった。
「......どういう意味だよ?」
「本物の鮫島だったら、もうまともには生きられねえだろうな」
「じゃ、じゃあ......、本当の鮫島は......」
「死んでるかどうかなんてわからねえよ。でも、これは多分鮫島じゃないだろうな」
「え、だとしたら......」
「おれも霊がどうとかってのは詳しくねえけど、もしかしたら鮫島のふりをした霊かもしれねえな」
鮫島らしきモノがまるで上に上げられたマリオネットのように不気味に立ち上がった。
それはもはや人間の動きには見えなかった。
【続く】
鮫島ーー弓永と森永、ふたりの前に先に夜の学校へと侵入していた同級生が現れた。森永はうなだれて座る鮫島を前にして涙ぐんでいた。
「無事だったんだな!」
声を上げて鮫島のほうへと寄って行く森永。だが、弓永は目を細めて鮫島のことを険しい表情で眺めていた。そんなことにはお構いなしに、
「良かった、良かった」そういって森永はうずくまっている鮫島の身体を擦っていた。「どうなるかと思ってた。おれはたまたま弓永たちに助けられたからいいけどさ。さぁ、早く外に出ようぜ。清水は何処にいるんだよ?」
その時、弓永が空気を裂くような大きな声で森永のことを呼んだ。森永が振り返ると、弓永は何か怒りを宿したような表情を浮かべていた。
「......どうしたんだよ?」と森永。「やっと鮫島を見つけたんだぜ? あとは清水と石川先生を見つければ、ここからーー」
「ソイツ、本当に鮫島か?」
弓永のことばに唖然とし、森永はゆっくりと鮫島のほうを見返した。一見しても、よく見てもそれは級友である鮫島だった。森永はフフッと笑って見せ、再び弓永のほうを見た。
「お前、どうしちゃったんだよ。緊張し過ぎて色んなことが信用できなくなってんじゃんか。大丈夫だよ、ほらーー」
ことばの途中で森永は鮫島のほうを見た。
突然、鮫島は顔を上げた。
森永は声を上げてうしろに尻餅をつくと、そのままうしろへジリジリと下がって行った。
「だからいっただろ、下手に近づくな」
いつも余裕が溢れている弓永のことばに緊張が宿っていた。それもそうだろう。目の前にいる鮫島。その顔は、目が飛び出さんほどに見開いて、口が裂けんほど大きく微笑み、その端々からヨダレが垂れていた。まず、普通の状態ではなかった。
「鮫島、どうしたんだよ?」
森永は声を震わした。その疑問に答えるように、弓永はことばのバトンを継いだ。
「これが本物の鮫島だと思うのか?」
森永はハッとしていった。
「......どういう意味だよ?」
「本物の鮫島だったら、もうまともには生きられねえだろうな」
「じゃ、じゃあ......、本当の鮫島は......」
「死んでるかどうかなんてわからねえよ。でも、これは多分鮫島じゃないだろうな」
「え、だとしたら......」
「おれも霊がどうとかってのは詳しくねえけど、もしかしたら鮫島のふりをした霊かもしれねえな」
鮫島らしきモノがまるで上に上げられたマリオネットのように不気味に立ち上がった。
それはもはや人間の動きには見えなかった。
【続く】