【翔べ!ごむリン!】
文字数 2,063文字
初めての経験が成功すると嬉しいのはいうまでもないだろう。
成功体験というのは、それがどんなに小さくとも人に達成感と幸福をもたらし、更なる発展へと導いてくれる。
だからこそ、小さなことにでも挑戦していくべきだし、ちょっとした成功でも喜んで受け入れていくべきなのだと思うのだ。
さて、『ごむリン篇』の最終回である。あらすじーー
『芸術祭一日目、ごむリンに扮した五条氏は、純粋な子供の愛情と汚れた大人の夢のないひとことにタジタジになるのだった』
とまぁ、こんな感じか。今日は短めに済ませる予定。じゃ、やってくーー
本番当日、朝早くに会場入りする。というのも、おれの役割はただテリーとの幕間でのやり取りと踊りをやるだけではないからだ。
そう、おれはごむリンとして、開場前もホールを彷徨かなければならなかったのだ。
とまぁ、その前に軽くテリーと打ち合わせ。といっても、軽い段取り説明があったのみで、後おれにできることといえば、完全なアドリブでムーブをつけていくことだけだった。
不安は募る。が、やるしかない。あおいと共にホールに出て、ごむリンとしての役割を務める。とはいえ、もう慣れたモンだった。
ごむリンのムーブに関しては前日の活動で感覚を掴んでおり、飛んだり跳ねたりと、おちゃのこさいさいだった。
時間が近づき、おれはあおいと共に舞台袖までいった。おれは一旦ごむリンの頭を脱ぎ、舞台袖から演目を眺めていた。
中にはブラストの有志メンバーによる短編芝居の公演もあったのだけど、ごむリンで手一杯だったおれの頭には内容も入ってこなかったよな。それはさておきーー
そんなイベントが進行している中でも、おれの立ち位置や捌け位置や何かが目まぐるしく変化していった。まぁ、イベントの進行によって何かが変化するのはあるにはあるけど、出捌けや何かの基本的な段取りもちゃんと出来ていない、確認できていないようなイベントってあまりないんよな。そういう場合は完全な主催者の怠慢というかーー今回の五村芸術祭の主催者である文化団体もそういうところは甘かった。
さて、そんな中、おれの最初の登場シーンが近づいてきた。そう、五村梅踊りの前の幕間でのテリーとの掛け合いのシーンだ。おれは再び頭をはめ直し、自分の出番を待った。
前の団体が終わり、とうとうおれの登場の時間となった。前の団体が捌け終えるのを確認し、舞台上へと姿を現した。
テリーの司会進行に合わせて、おれもアドリブでレスポンスしていく。もはや緊張などしていなかった。ただ、ごむリンに扮してごむリンのムーブをするのが楽しくて仕方なかった。
テリーとの掛け合いは自分でも納得いくようなできだったーーと思う。それから、五村梅踊りの時間である。おれの出演は踊りの半ばからだ。それまでは一旦袖に捌け、出番を待つ。
暗い袖中も怖くはなかった。梅の花のオブジェクトを両手に持って、スタンバイ。
前半部が終わった。おれは舞台センターへと向かった。音楽は流れ続けている。ポジションに着き、すぐさま踊りに参加した。
もはや何も考えていなかった。余計な思考は行動を阻害し、感覚をジャムらせる。今まで練習した中で養った潜在的な感覚を頼りに、流れに身を任せて踊った。
結局、完璧に踊れてしまった。
何ひとつ失敗することなく、おれはごむリンに扮して五村梅踊りを完璧に踊り切ってしまったのだ。踊りが終わるとおれとテリーにのみピンスポットが当たり、幕間の掛け合いとなる。これも完璧だった。
自分の中で、もはやいうことは何もなかった。
幕間の掛け合いも終わり、おれの出番は終わった。片付け以外のすべての仕事を終え、おれはちょっとした達成感に浸っていた。
楽しかった。
ここまでできるとは思わなかった。
そう感じられただけで充分だった。おれはごむリンの頭を脱ぎ、素の自分へと戻るのだった。
イベント終了後、おれのごむリンの芝居はちょっとした話題となったようだった。素のおれを見て、「ごむリンさんッ!」と挨拶してくれるスタッフの方もいらしたし、イベント参加団体の方もいた。それから、後のイベントでもごむリンをやって欲しいとの声もあったーー辞退したけど。プラス、テリーからは、
「五条くん完璧だったね! すごいすごい!
でも、間違えても可愛かったかもしれないね」
お褒めのことばとダメ出しとまではいかないけど、どこか納得できることばを掛けて貰った。確かに、ごむリンだったら完璧に踊らずとも許されるかもしれないな。
とはいえ、この経験は自分にとって貴重なモノとなった。
今でも駅前や何かでごむリンのイラストを見ると、どこか親近感を覚えてしまう。
自分が演じたのも理由としてはあるだろうし、何よりもこの時の経験が自分の中でも印象的だったのだろうと改めて認識するのだった。
おれは確かに五村の妖精だったのだ。
とまぁ、今日はここまで。次回から通常営業ーーまぁ、最近は通常のほうが多かったし、特に変化はなしか。というワケで、
アスタラビスタ。
成功体験というのは、それがどんなに小さくとも人に達成感と幸福をもたらし、更なる発展へと導いてくれる。
だからこそ、小さなことにでも挑戦していくべきだし、ちょっとした成功でも喜んで受け入れていくべきなのだと思うのだ。
さて、『ごむリン篇』の最終回である。あらすじーー
『芸術祭一日目、ごむリンに扮した五条氏は、純粋な子供の愛情と汚れた大人の夢のないひとことにタジタジになるのだった』
とまぁ、こんな感じか。今日は短めに済ませる予定。じゃ、やってくーー
本番当日、朝早くに会場入りする。というのも、おれの役割はただテリーとの幕間でのやり取りと踊りをやるだけではないからだ。
そう、おれはごむリンとして、開場前もホールを彷徨かなければならなかったのだ。
とまぁ、その前に軽くテリーと打ち合わせ。といっても、軽い段取り説明があったのみで、後おれにできることといえば、完全なアドリブでムーブをつけていくことだけだった。
不安は募る。が、やるしかない。あおいと共にホールに出て、ごむリンとしての役割を務める。とはいえ、もう慣れたモンだった。
ごむリンのムーブに関しては前日の活動で感覚を掴んでおり、飛んだり跳ねたりと、おちゃのこさいさいだった。
時間が近づき、おれはあおいと共に舞台袖までいった。おれは一旦ごむリンの頭を脱ぎ、舞台袖から演目を眺めていた。
中にはブラストの有志メンバーによる短編芝居の公演もあったのだけど、ごむリンで手一杯だったおれの頭には内容も入ってこなかったよな。それはさておきーー
そんなイベントが進行している中でも、おれの立ち位置や捌け位置や何かが目まぐるしく変化していった。まぁ、イベントの進行によって何かが変化するのはあるにはあるけど、出捌けや何かの基本的な段取りもちゃんと出来ていない、確認できていないようなイベントってあまりないんよな。そういう場合は完全な主催者の怠慢というかーー今回の五村芸術祭の主催者である文化団体もそういうところは甘かった。
さて、そんな中、おれの最初の登場シーンが近づいてきた。そう、五村梅踊りの前の幕間でのテリーとの掛け合いのシーンだ。おれは再び頭をはめ直し、自分の出番を待った。
前の団体が終わり、とうとうおれの登場の時間となった。前の団体が捌け終えるのを確認し、舞台上へと姿を現した。
テリーの司会進行に合わせて、おれもアドリブでレスポンスしていく。もはや緊張などしていなかった。ただ、ごむリンに扮してごむリンのムーブをするのが楽しくて仕方なかった。
テリーとの掛け合いは自分でも納得いくようなできだったーーと思う。それから、五村梅踊りの時間である。おれの出演は踊りの半ばからだ。それまでは一旦袖に捌け、出番を待つ。
暗い袖中も怖くはなかった。梅の花のオブジェクトを両手に持って、スタンバイ。
前半部が終わった。おれは舞台センターへと向かった。音楽は流れ続けている。ポジションに着き、すぐさま踊りに参加した。
もはや何も考えていなかった。余計な思考は行動を阻害し、感覚をジャムらせる。今まで練習した中で養った潜在的な感覚を頼りに、流れに身を任せて踊った。
結局、完璧に踊れてしまった。
何ひとつ失敗することなく、おれはごむリンに扮して五村梅踊りを完璧に踊り切ってしまったのだ。踊りが終わるとおれとテリーにのみピンスポットが当たり、幕間の掛け合いとなる。これも完璧だった。
自分の中で、もはやいうことは何もなかった。
幕間の掛け合いも終わり、おれの出番は終わった。片付け以外のすべての仕事を終え、おれはちょっとした達成感に浸っていた。
楽しかった。
ここまでできるとは思わなかった。
そう感じられただけで充分だった。おれはごむリンの頭を脱ぎ、素の自分へと戻るのだった。
イベント終了後、おれのごむリンの芝居はちょっとした話題となったようだった。素のおれを見て、「ごむリンさんッ!」と挨拶してくれるスタッフの方もいらしたし、イベント参加団体の方もいた。それから、後のイベントでもごむリンをやって欲しいとの声もあったーー辞退したけど。プラス、テリーからは、
「五条くん完璧だったね! すごいすごい!
でも、間違えても可愛かったかもしれないね」
お褒めのことばとダメ出しとまではいかないけど、どこか納得できることばを掛けて貰った。確かに、ごむリンだったら完璧に踊らずとも許されるかもしれないな。
とはいえ、この経験は自分にとって貴重なモノとなった。
今でも駅前や何かでごむリンのイラストを見ると、どこか親近感を覚えてしまう。
自分が演じたのも理由としてはあるだろうし、何よりもこの時の経験が自分の中でも印象的だったのだろうと改めて認識するのだった。
おれは確かに五村の妖精だったのだ。
とまぁ、今日はここまで。次回から通常営業ーーまぁ、最近は通常のほうが多かったし、特に変化はなしか。というワケで、
アスタラビスタ。