【冷たい墓石で鬼は泣く~睦拾死~】
文字数 1,119文字
結局、前例あることを同じように行おうとするのならば、前と同じ手段を取ることがいちばんである。
そう、藤十郎様がわたしを辞めさせんとするのならば、それは同じ手法こそが手っ取り早い。即ち、それは藤十郎様が自身の手でわたしを倒すこと、これこそがわたしを追い出すいちばん簡単な方法だった。
これまで、何人もの『先生』と呼ばれる人たちがわたしの手で追い出されて来た。やったのはわたしだったが、その意向を表したのは藤十郎様その人だった。そして、そこでまたひとり追い出したい人間が現れた。それがたまたまわたしだった。それだけの話だ。
ただし、今度は自分の代わりに果たし合いの場の土を踏んでくれるお人はいない。すべては自分の手で勝利しなければならない。
わたしと藤十郎様、その腕前は一目瞭然だった。まず間違いなくわたしが勝つ。何ともつまらない勝敗予想だった。そう考えると、それがわかっていたからこそ、わたしはこの勝負に挑んだーー即ち、武田家に居座るためにその条件を提示したと思われるかもしれない。
だが、その逆だった。
わたしは最初から勝つつもりなどなかった。仮に勝ってしまったとしても、何かしらのイチャモンをつけて無理矢理にでも出ていくつもりだった。わたしはもうウンザリしていた。ここまで聞き分けがなく、自分の手で何かをしようとしないで逃げ続けている藤十郎様にウンザリしていた。
確かに藤十郎様はわたしに似た部分はある。とはいえ、わたしはすべてから逃げたワケではなかった。何だかんだ学問も剣術もまあまあな成績をおさめ、そして最終的に自らの意思を通して牛野の家を飛び出した。もちろん、人間、生まれ育った環境が違うのだから、同じような意識と能力と考え方を持って生きることは出来ない。
そう、わたしが直参の旗本の息子になれないように、藤十郎様がただの旗本の息子にもなれないということだ。
人間、生まれながらにして自分の身分は選べない。親を選ぶことも、育つ環境を選ぶことも出来ない。だが、最終的に自分がどうしたいかを選ぶことは出来る。仮にその果てに屍となろうとも、自分がこころの抜けたカラクリ人形のようになるよりはずっといいだろうーーわたしはそう思う。
このままでは、藤十郎様はただのワガママなだけのみっともない人になってしまう。だが、わたしにはもう藤十郎様をどうこう出来るモノでもなくなってしまった。だから、わたしはここを去ろうと思った。武田家の仕えていれば食いっぱぐれることはないし、直参の旗本に仕えているという肩書きだけは手に入るだろう。
だが、それはわたしの本望ではなかった。
だからわたしは藤乃助様立ち会いのもと、すべてを終わらせるのだ。
【続く】
そう、藤十郎様がわたしを辞めさせんとするのならば、それは同じ手法こそが手っ取り早い。即ち、それは藤十郎様が自身の手でわたしを倒すこと、これこそがわたしを追い出すいちばん簡単な方法だった。
これまで、何人もの『先生』と呼ばれる人たちがわたしの手で追い出されて来た。やったのはわたしだったが、その意向を表したのは藤十郎様その人だった。そして、そこでまたひとり追い出したい人間が現れた。それがたまたまわたしだった。それだけの話だ。
ただし、今度は自分の代わりに果たし合いの場の土を踏んでくれるお人はいない。すべては自分の手で勝利しなければならない。
わたしと藤十郎様、その腕前は一目瞭然だった。まず間違いなくわたしが勝つ。何ともつまらない勝敗予想だった。そう考えると、それがわかっていたからこそ、わたしはこの勝負に挑んだーー即ち、武田家に居座るためにその条件を提示したと思われるかもしれない。
だが、その逆だった。
わたしは最初から勝つつもりなどなかった。仮に勝ってしまったとしても、何かしらのイチャモンをつけて無理矢理にでも出ていくつもりだった。わたしはもうウンザリしていた。ここまで聞き分けがなく、自分の手で何かをしようとしないで逃げ続けている藤十郎様にウンザリしていた。
確かに藤十郎様はわたしに似た部分はある。とはいえ、わたしはすべてから逃げたワケではなかった。何だかんだ学問も剣術もまあまあな成績をおさめ、そして最終的に自らの意思を通して牛野の家を飛び出した。もちろん、人間、生まれ育った環境が違うのだから、同じような意識と能力と考え方を持って生きることは出来ない。
そう、わたしが直参の旗本の息子になれないように、藤十郎様がただの旗本の息子にもなれないということだ。
人間、生まれながらにして自分の身分は選べない。親を選ぶことも、育つ環境を選ぶことも出来ない。だが、最終的に自分がどうしたいかを選ぶことは出来る。仮にその果てに屍となろうとも、自分がこころの抜けたカラクリ人形のようになるよりはずっといいだろうーーわたしはそう思う。
このままでは、藤十郎様はただのワガママなだけのみっともない人になってしまう。だが、わたしにはもう藤十郎様をどうこう出来るモノでもなくなってしまった。だから、わたしはここを去ろうと思った。武田家の仕えていれば食いっぱぐれることはないし、直参の旗本に仕えているという肩書きだけは手に入るだろう。
だが、それはわたしの本望ではなかった。
だからわたしは藤乃助様立ち会いのもと、すべてを終わらせるのだ。
【続く】