【五村西中ガールズコレクション】

文字数 3,598文字

 人気投票ほど残酷なモノはない。

 雑誌を捲れば普通に載っているあの人気投票、あれは投票が多ければ多いほどにファンが多く、少なければ少ないほどファンは少ないということになる。

 当たり前の話ではあるのだけど、その当たり前の話が逆にいえば残酷だという話だ。

 確かに芸能人ならば、そういう人気投票の対象になっても仕方ないだろう。そもそも人に見られる職業であるが故に、「好き」や「嫌い」といった感情だけで評価されるのも致し方ない部分はあるーーだからといって、誹謗中傷していいかとなると、それは違うけどな。

 それはさておき、人気投票というのは芸能の仕事をしているからこそ機能するというか、ある種のエクスキューズが適応されると思う。

 だが、これが何でもない一般人に適応されたらどうだろう。

 別に人に見られることを目的ともしていないにも関わらず、何かしらの形で人気投票がなされていたらどうだろう。

 多分、それを知ったらイヤな気分、あるいは複雑な気分になるだろう。

 まぁ、かくいうおれが、仮に今いる組織や団体で人気投票に掛けられたら、オール・ドベになるであろうことはいうまでもないと思うのだけど、あまりに人に嫌われ過ぎて慣れた。うん、慣れた……。それはさておきーー

 そもそもそんな一般のグループ内での人気投票などするべきではないと思うのだ。

 だって、そんな小さなコミュニティで行われる人気投票など、単なる組織票でしかなく、仲のいい人に投票するのが関の山。そうなればコミュニティの中で不要なヒエラルキーが確立され、面倒ごとが増えるだけだ。

 人気投票なんて、どう切っても傷つく人が出て来ることはわかり切っているのだから、あまりやるべきではないのだけど、人はエンタメとして人と人を比べることを好む傾向にある。

 結局のところ、人は人を比べたがる生き物でしかない、ということだ。

 さて、今日はそんな人気投票に纏わる話。ていっても、落ちはないけどな。それはいつも通りーーそうだね。じゃ、やってくーー

 あれは中学二年の時のことだった。

 その日は体育の授業があったのだけど、体育担当の教員が出張で、教室で保健の自習をすることとなったのだーー男子だけで。

 というのも、おれが通っていた中学では、体育は男女で分かれて別の教員の元でやることとなっていたのだ。プラス、ふたクラス合同なので、授業自体の生徒の人数はひとつのクラスの生徒の数と殆ど変わらない。

 さて、そんなワケで保健の自習となったのだが、教室の中にいるのは、男、男、男、男のオンパレードだったワケだ。

 まぁ、いわずともわかると思うけど、中二の男子が保健の自習をマジメにやるワケがなく、しかも自習監督の教員もいないこともあって、中々の無法地帯となっていた。

 そんな中、うちのクラスの体育脳代表ともいえる小澤が手を大きく叩いたのだ。

「はい、注目! 今から、投票を集めたいと思います!」

 小澤はそういい放った。今から皆さんには殺し合いをしてもらいます的な感じでいうのはいいけど、一体何の集計をするというのだろう。

 この小澤だが、先ほどいったように、体育脳の代表的な存在で、中三の時はおれと同様、体育祭の応援団長をやるようなヤツだった。とはいえ、性格はいいとはいえず、一種のガキ大将的な傲慢な振る舞いが目に余る感じだった。

 ちなみに五条氏はかつて小澤にイジメられていたのだけど、今考えてみると、その当時は小澤には友達がおらず、まともに相手をしてくれるのがおれしかいなかったこともあって、孤独だったんだろうな、と思うのである。家庭環境も色々と複雑だったみたいだしな。

 ただ、中二にもなると、イジメなんて過去の話で、それどころかプロレスや格闘技にやたらと精通していた五条氏に小澤が寝技を掛けようとして逆に返されるとか、そんな関係になっていた。人間関係も時間で変わるモンよな。

 さて、そんな小澤なのだけど、やたらとヒエラルキーに拘るヤツで、男子の間でも微妙な格付けをしようとするタイプだったので、もしかしたらそういうことなんじゃ、と思っていた。

「投票って何すんの?」

 教室の片隅から疑問が飛ぶ。それに対して小澤はこういったのだーー

「このクラスで一番かわいい女子を投票で決めるんだよ!」

 まぁ、何とも残酷というか。フェミニストが聞いたら頭から煙を上げて卒倒してしまうと思うんだけど、とはいえ、こういうのも中学生ならではという感じがするイベントではあった。

 現に、おれもその当時は何となく面白そうだなと思って、ちょっと乗り気ではあった。おれだけではない。クラスの男子の殆どがどことなく乗り気な感じを出していたのだ。やっぱ、みんなこういうの好きなんだろうな。

「じゃあ、今から五分後に投票を集めるんで、それまでに誰が一番かわいいかを考えて、紙に書いておれの所に持ってきて下さーい! じゃあ……、スタート!」

 小澤のアナウンスで投票が開始された。おれは誰に投票するかとっくに決めていた。

 その相手というのは、新山さんという女子だった。理由はシンプルに興味のある存在だったからだ。

 実をいえば、新山さんとは幼稚園、小学校と同じだったのだけど、幼稚園の頃はそもそもグループが違ったうえに、色々あって滅茶苦茶嫌われていたのだ。

 まぁ、そんなことを何となく引き摺ってはいたのだけど、ちょうど林間学校の頃のことだ。新山さんと隣の席になったのだ。

 それで色々と話をしたり、林間学校で一緒に班行動している内に、何となく気になる存在になっていたというワケだ。

 そんな感じで、おれは細かく切った紙に新山さんの名前を書き、四つ折りにして小澤に渡したのだ。

 五分して集計は終了。小澤が紙に書かれた名前を読み上げ、小澤の友人たちがうしろの黒板にその投票結果を書き込んでいく。結果ーー

 新山さんが圧倒的なトップだった。

 これには納得。そもそも新山さんをかわいいといっている人は多かったし、チョイスとしても無難といえば無難。そんな中ーー、

 二票だけ、新山さん以外の名前が書かれた紙があったのだ。

 まぁ、二票以外全部が新山さんってのもすごいんだけど、そんな中で一票でも入った二名というのもまたスゴイワケで。

 一票は、大峰、もう一票は岡原だった。

 岡原は、『体育祭篇』にて名前が出ていたメガネを掛けた吹奏楽部の女子で、豪快に笑う様が特徴的な子だった。ちなみに岡原とは小学校時代、それなりに仲が良かったりしたのだけど、実は岡原には隠れファンが結構いるといわれていた。実はおれもそうだったからな。

 もうひとりの大峰は、学級委員で新山さんと同じ剣道部の女子だ。読書好きで、勉強もできる。それなのにやたらとはっちゃけているという面白い要素の塊みたいな人だった。

 ちなみに大峰は同じ塾に通っていたこともあってか、女子に滅茶苦茶嫌われていた五条氏にとっては数少ない仲のいい女子で、変な話、ウイルス騒動が起きるまでは、年一のペースで会うような関係だった。てか、おれが芝居をやる時は来てくれるからな。ありがたい限り。

 さて、新山さん一強の中に紛れた岡原と大峰だけど、それから一体この二票は誰が入れたのかという話になったワケで。誰が入れたのかと名乗り出て欲しいということになったのだ。

 まず、大峰だけど、誰が入れたか忘れちゃったわ。確か、意外な人だったと思う。

 そして、次に岡原に入れたのは誰って話だけど、これは何とーー

 健太郎くんだったのだ。

 クラス内で驚きの声が上がる。そもそも、恋愛の話とは無縁だと思われていた健太郎くんがそういうチョイスをすること自体、みんな興味深かったらしく、

「何で岡原なの!?」

「岡原のどこがいいの!?」

 というワードだけ取り出すと岡原に対して失礼極まりないのだけど、多分、みんなシンプルに健太郎くんが何を思って投票したのか気になったのだと思う。で、健太郎くんの答えはーー

「え……、だって……、かわいい、じゃん……。明るいところもいいし……」

 ナチュラルな好意だった。

 これにはクラス全体が声を上げる。まぁ、それから少しの間、健太郎くんは岡原のことでイジられることになったのでした。ちなみに、外山も岡原が好きだったらしいんよな。何となくわかる気がするけどね。

 まぁ、こんな人気投票をやった後だから授業が終わって女子が帰ってくると、みんなギコチナイというか、男子全員が共犯みたいな感じでハラハラしつつ、過ごすこととなったのでした。何つうか、中学生らしいよな。

 まぁ、人気投票もいいと思うけど、健太郎くんみたいに組織票に負けずに自分の好きな女性のことを陰で慕うのが一番なのかもしれないよな。勿論、犯罪にならない範囲で、だけど。

 おれも自分にとってのナンバーワンが欲しいモノだ。無理?ーー知ってる。

 アスタラビスタ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み