【その列車、行き先不定】
文字数 2,395文字
何事も初めての経験というのは刺激的だ。
それはいいこと悪いことなど関係ない。確かに法から外れたことをすれば、刺激的だろう。でも、実際は法から外れていなくとも、初めての経験というのは刺激的なのだ。
まぁ、そんな感じで昨日の続きである。あらすじーー「GoD悪人軍団のひとり、クモナポレオンに敗れた神敬介は、風見志郎の手によってマーキュリー回路を埋め込まれ、クモナポレオンを新技、真空地獄車にて撃破したのだ」
ということだ。うん、ワケわかんねえな。
実際のあらすじとしては、五条氏が五村市内にある劇団『ブラスト』の稽古に見学にきたといったところだろう。何ともまぁ、簡単に説明できること。
そんな感じで、昨日の続きであるーー
『ブラスト』の稽古場である会議室に入ると、たくさんの質問が飛んだ。おれの存在が何とも珍しいらしい。おれはその一つひとつの質問に答えていった。
時間は過ぎ、準備運動の時間となった。
身体を動かす必要はあるのか、といわれるとそれはイエスだ。例え台本の読み合わせだけでも、身体を動かしておかないと、声も出ずらくなる。
準備体操が終わると、今度は発声練習だ。よくドラマやなんかで劇団が出てくると、発声練習をしていることがあるけど、本当にあんな感じであるーーまぁ、団体によってやり方は異なるとはいえ、大方間違いはない。
さて、準備を終えると次は本題となる。
その日の稽古は、次の公演のための台本候補を読み合わせるとのものだった。おれは何もわからずに、フリーの時間、他の劇団員と交流を深めていた。といっても、緊張でそんな深められなかったんだがな。
そうやって話をしていると、ひとりの女性からアナウンスが入る。
「はい、じゃあ、今日の本はわたしの推薦でーーをやります。配役はこの通りです」
そういって女性が指したホワイトボードには、その日の配役が書かれていた。何と、そこにはーー
おれの名前もあったんだな。
アイヤーって感じなんだけど、確かに自分の名前もその配役の中に入っていた。しかもーー
主役だったんですわ。
まぁ、実際の公演ではなく、あくまで練習とはいえ、ね。いきなり主役を演じるとなっておれも驚いたワケだ。そりゃあ、おれはディスプレイやスクリーンの前でたくさんの俳優の芝居を観てきたとはいえ、それはあくまで映像的な演技であって舞台的なそれとは違う。
映像芝居と舞台芝居、そこに違いはあるのか、と思われる人も多いかもしれないので簡単に説明しておくと、そこには明確な違いがある。
それは、観る側の視点が、カメラのレンズを通しているか否か、である。
カメラ越しであるということは、フォーカスや角度等によって、その人物の表情や肉体の微細な動きを捉えることができるということだ。
反面、生の目で観るということは、ある程度の距離をとりつつ、ひとりの人物の全体像を観ることとなる。
そこで起こるのは即ち、感情表現の変化だ。
カメラを通して微細な感情表現ができる映像芝居では、仰々しい感情表現は不自然で、胡散臭くなってしまうーーまぁ、コメディだと、それをするのもひとつの手法なんだけど。
逆に劇場にてひとりの役者を全体の中のひとパートとして観る場合は、舞台と客席に距離があるため、多少は仰々しいアクションが求められる。
よく、映画やドラマのレビューにて、
「演技が大袈裟でウソ臭い」
という話が出てくるのだけど、そういう場合は、その役者が映像の中で舞台芝居をしている場合が殆どだったりする。
まぁ、そんな感じで舞台と映像では芝居の仕方が異なるということだ。
その当時の自分も、映像芝居と舞台芝居が異なるものだというのは、わかっていた。とはいえ、それは上でいったようなことであって体感的にどうかというのは、まったくわからない。
とりあえず、できることをやってみるか。そう胸に誓っていると、
「おし、じゃあ一緒に読もうか」
そう声を掛けられた。おれに声を掛けたのは、劇団内で『X』と呼ばれている男性だった。Xは、年齢は三〇台後半で、身長はそこまで大きくないが非常に引き締まった身体を持っていた。
おれはXとともに台本を読み始めた。初めての経験で戸惑うことも多いが、やってみるとこれがまた面白い。
考えてみると、日常生活の中で自分が自分以外の存在でいられる場というのはほぼないに等しい。『蘇える金狼』じゃあるまいしね。
おれはその「自分以外の誰かになりきる」というのが楽しくて仕方なかった。自分が普段いわないことばで、自分とは異なった人格で立ち振る舞うというのが、面白くて仕方なかった。
とてつもない充実感の中、その日の稽古は終わった。気づけば、スタート時にはいなかったメンバーも随分といる。その人数の多さに、おれは緊張を覚えた。
「どうだったよ、初めての本読みは」
Xが訊ねた。おれはシンプルに感じたことをいった。淡白だとも思われかねないだろうけど、その時のろくなことばを持っていなかった自分にとっては、自分の中にあるものをストレートに表現することしかできなかったのだ。
そんな中、視線を感じた。違和感。おれは視線を感じた方向を向いた。するとーー
眼鏡を掛けた高身長でガタイのいい男がおれのほうをじっと眺めているではないか。
気のせいではなかった。インテリヤクザ的な雰囲気を持つその男は間違いなくおれをじっと見ていた。おれは、ただならぬものを感じーー
とまぁ、今日はここまで。やっぱ長くなるね。ま、はじめからその予定だったけど、今回は体育祭篇よりも圧倒的に長くなりそう。
暫くはネタには困んねぇな。
んじゃ、アスタラビスタ。
それはいいこと悪いことなど関係ない。確かに法から外れたことをすれば、刺激的だろう。でも、実際は法から外れていなくとも、初めての経験というのは刺激的なのだ。
まぁ、そんな感じで昨日の続きである。あらすじーー「GoD悪人軍団のひとり、クモナポレオンに敗れた神敬介は、風見志郎の手によってマーキュリー回路を埋め込まれ、クモナポレオンを新技、真空地獄車にて撃破したのだ」
ということだ。うん、ワケわかんねえな。
実際のあらすじとしては、五条氏が五村市内にある劇団『ブラスト』の稽古に見学にきたといったところだろう。何ともまぁ、簡単に説明できること。
そんな感じで、昨日の続きであるーー
『ブラスト』の稽古場である会議室に入ると、たくさんの質問が飛んだ。おれの存在が何とも珍しいらしい。おれはその一つひとつの質問に答えていった。
時間は過ぎ、準備運動の時間となった。
身体を動かす必要はあるのか、といわれるとそれはイエスだ。例え台本の読み合わせだけでも、身体を動かしておかないと、声も出ずらくなる。
準備体操が終わると、今度は発声練習だ。よくドラマやなんかで劇団が出てくると、発声練習をしていることがあるけど、本当にあんな感じであるーーまぁ、団体によってやり方は異なるとはいえ、大方間違いはない。
さて、準備を終えると次は本題となる。
その日の稽古は、次の公演のための台本候補を読み合わせるとのものだった。おれは何もわからずに、フリーの時間、他の劇団員と交流を深めていた。といっても、緊張でそんな深められなかったんだがな。
そうやって話をしていると、ひとりの女性からアナウンスが入る。
「はい、じゃあ、今日の本はわたしの推薦でーーをやります。配役はこの通りです」
そういって女性が指したホワイトボードには、その日の配役が書かれていた。何と、そこにはーー
おれの名前もあったんだな。
アイヤーって感じなんだけど、確かに自分の名前もその配役の中に入っていた。しかもーー
主役だったんですわ。
まぁ、実際の公演ではなく、あくまで練習とはいえ、ね。いきなり主役を演じるとなっておれも驚いたワケだ。そりゃあ、おれはディスプレイやスクリーンの前でたくさんの俳優の芝居を観てきたとはいえ、それはあくまで映像的な演技であって舞台的なそれとは違う。
映像芝居と舞台芝居、そこに違いはあるのか、と思われる人も多いかもしれないので簡単に説明しておくと、そこには明確な違いがある。
それは、観る側の視点が、カメラのレンズを通しているか否か、である。
カメラ越しであるということは、フォーカスや角度等によって、その人物の表情や肉体の微細な動きを捉えることができるということだ。
反面、生の目で観るということは、ある程度の距離をとりつつ、ひとりの人物の全体像を観ることとなる。
そこで起こるのは即ち、感情表現の変化だ。
カメラを通して微細な感情表現ができる映像芝居では、仰々しい感情表現は不自然で、胡散臭くなってしまうーーまぁ、コメディだと、それをするのもひとつの手法なんだけど。
逆に劇場にてひとりの役者を全体の中のひとパートとして観る場合は、舞台と客席に距離があるため、多少は仰々しいアクションが求められる。
よく、映画やドラマのレビューにて、
「演技が大袈裟でウソ臭い」
という話が出てくるのだけど、そういう場合は、その役者が映像の中で舞台芝居をしている場合が殆どだったりする。
まぁ、そんな感じで舞台と映像では芝居の仕方が異なるということだ。
その当時の自分も、映像芝居と舞台芝居が異なるものだというのは、わかっていた。とはいえ、それは上でいったようなことであって体感的にどうかというのは、まったくわからない。
とりあえず、できることをやってみるか。そう胸に誓っていると、
「おし、じゃあ一緒に読もうか」
そう声を掛けられた。おれに声を掛けたのは、劇団内で『X』と呼ばれている男性だった。Xは、年齢は三〇台後半で、身長はそこまで大きくないが非常に引き締まった身体を持っていた。
おれはXとともに台本を読み始めた。初めての経験で戸惑うことも多いが、やってみるとこれがまた面白い。
考えてみると、日常生活の中で自分が自分以外の存在でいられる場というのはほぼないに等しい。『蘇える金狼』じゃあるまいしね。
おれはその「自分以外の誰かになりきる」というのが楽しくて仕方なかった。自分が普段いわないことばで、自分とは異なった人格で立ち振る舞うというのが、面白くて仕方なかった。
とてつもない充実感の中、その日の稽古は終わった。気づけば、スタート時にはいなかったメンバーも随分といる。その人数の多さに、おれは緊張を覚えた。
「どうだったよ、初めての本読みは」
Xが訊ねた。おれはシンプルに感じたことをいった。淡白だとも思われかねないだろうけど、その時のろくなことばを持っていなかった自分にとっては、自分の中にあるものをストレートに表現することしかできなかったのだ。
そんな中、視線を感じた。違和感。おれは視線を感じた方向を向いた。するとーー
眼鏡を掛けた高身長でガタイのいい男がおれのほうをじっと眺めているではないか。
気のせいではなかった。インテリヤクザ的な雰囲気を持つその男は間違いなくおれをじっと見ていた。おれは、ただならぬものを感じーー
とまぁ、今日はここまで。やっぱ長くなるね。ま、はじめからその予定だったけど、今回は体育祭篇よりも圧倒的に長くなりそう。
暫くはネタには困んねぇな。
んじゃ、アスタラビスタ。