【踊るガイキチは妖精さん】
文字数 2,263文字
何事も挑戦する姿勢が大事だ。
兎に角、法に抵触しない限りーー或いは法にすれすれの範囲でない限り、何でも挑戦してみるべきだと思うのだ。
とはいえ、こうはいいつつもおれは何かに挑戦することが苦手だ。
その一番の理由というのがパニックの過去だったり、叱られることに対する恐怖だったりなのだけど、だとしても精神をダメにしない程度に何かに挑戦すべきだとは思っている。
挑戦することによって人は成長し、人生は潤う。おれはそう思うのだ。
というワケで、『ごむリン篇』の三回目である。あらすじーー
『五村のゆるキャラ、「ごむリン」の中に入って司会をして欲しい。プラス、踊って欲しい。改めてテリーからのメッセージを見返したおれは頭を抱えた。どうすればいい。おれはまだ見ぬ経験に不安と好奇心を燃やすのだった』
とこんな感じか。多分あと三回で終われるかな。じゃ、やってくわーー
着ぐるみ着て司会とダンスなんて無理ーーそんなことはいえるワケもなく、モノごとは流れるように進んでいるようだった。
テリーからの連絡によれば、本番前のリハーサルを含めて三回程練習すれば大丈夫だろうとのことだったのだけどーー
本当に大丈夫なのか?
何しろ殆ど素人レベルの役者ごっこをやっているようなチンピラが、やったこともない着ぐるみ演技と着ぐるみを着たダンスをやるのだ。三回の練習で何とかなるワケがなかった。
が、できないとはいえない。
とはいえ、救いもある。それは着ぐるみを着るということだ。
着ぐるみを着ればおれの顔は見えない。故にいくらミスろうがおれのミスだとわかるのは、おれが中に入ると知っている人だけだ。
加えて、ごむリンになりきるということはセリフを覚えて何かいう必要はないということでもある。これは大きかった。あとは段取りをしっかり頭に入れることだ。
取り敢えず、着ぐるみの現物は年が明けたらテリーのほうで確保するとのことだったので、年内最初のブラストの稽古で試しに着てみようということになった。
兎に角、試してみないことには何も出来ない。おれは出来れば年が明けて欲しくないなと願う全然勉強していない受験生みたいなことを思いながら、沸々と闘志を燃やすのだった。
そして、年が明けて最初のブラストの稽古。稽古途中、テリーに招かれ別で借りていた和室へいってみると、そこには大きな布袋でくるまれた巨大な球のようなモノがあり、袋を開いてみるとそこには、
ごむリンの着ぐるみが入っていた。
可愛らしい大きな頭に、全身を包むふわふわした胴体部。改めて見ると、ゴミ箱とか漁ってそうな野良犬みたいな顔した五条氏には余りにも不釣り合いだ。これを着るのか……。そう思っているとテリーが、
「五条くん、日本手拭い持ってる? 被り物する時に頭に巻くんだけど」
おれは正直にないといった。するとテリーは日本手拭いを貸してくれた。ピンク色のハートがたくさん描かれたヤツだ。こんなデストロイでノーフューチャーな風貌のチンピラにハートが描かれたピンクとは手拭いまで不釣り合い。
取り敢えず、いわれた通り頭に手拭いを巻き、ごむリンの胴体を着て頭部を被ってみる。
滅茶苦茶に視界が悪かった。
視界となる覗き穴は、ごむリンの両目の真ん中、即ち眉間の部分にあったのだけど、これが狭くて見えづらい。当然足許なんか見えたモンじゃなく、これではステージ上から足を踏み外すなんてことも当たり前に有り得る。
「どんな感じ?」テリーが訊ねた。
「……見えないっすね」
「そっか。本番は暗いからね。誰か介助の人を付けないと厳しいかもしれないね」
そういってテリーは介助の人間を探してみると約束してくれた。ありがたい限りだ。
それから着ぐるみを着て踊るダンスの動画を見せて貰うことになったーーまぁ、ダンスというより「踊り」なんだけど。
「五村梅踊り」は五村に伝わる、梅の花の付いた木の枝を模したオブジェクトを持って踊る伝統的な踊りだった。
ちなみに五村に長年住んでいるはずのおれでも初めて見たので、案外自分の地元のことでも知らないことは多いのだなと思ったり。それはさておき、五村梅踊りは民謡とあってそこまで複雑でもなければ、ハードでもなかった。確かにこれなら何度も練習はいらないだろう。
試しにごむリンの頭部を外した半生身の状態で動画に合わせて踊りをなぞってみたのだけど、これが案外初見でもついていける感じではあった。が、ことはそう簡単にはいくもんでもなかった。
というのも、着ぐるみを着ると着ないでは感覚が全然違い、そもそも生身で普通に踊れるモノも踊れなくなってしまうのだ。
多分、頭部を被ることが圧迫感というか、緊張感を生み、思考を奪っているのだろう。にしても全然動けない。動画にもついていけないし、記憶の引き出しを開けることすら困難だった。
ヤバイーーおれの脳は汗を掻いていた。
「わぁ! ごむリンだぁ!」
声のするほうを見ると、ブラストのメンバーがおれを見てレモン色の声を上げ、
「ごむリーン!」
と手を振ってくるじゃないか。おれは取り敢えずごむリンに成り切る練習として適当に手を振ってみたのだけど、
中の構造が悪いのか頭が傾くのな。
そもそも、頭が重くてバランスを保つのも結構大変だし、これは厳しい現実が待っていそうだと、おれは仮面の下で涙を流したとか流していないとかーー仮面ライダーみたいだな。
というワケで今日はここまで。次回は五村梅踊りに関してだ。まぁ、気長に待ちーー待ってねぇか。
アスタラビスタ。
兎に角、法に抵触しない限りーー或いは法にすれすれの範囲でない限り、何でも挑戦してみるべきだと思うのだ。
とはいえ、こうはいいつつもおれは何かに挑戦することが苦手だ。
その一番の理由というのがパニックの過去だったり、叱られることに対する恐怖だったりなのだけど、だとしても精神をダメにしない程度に何かに挑戦すべきだとは思っている。
挑戦することによって人は成長し、人生は潤う。おれはそう思うのだ。
というワケで、『ごむリン篇』の三回目である。あらすじーー
『五村のゆるキャラ、「ごむリン」の中に入って司会をして欲しい。プラス、踊って欲しい。改めてテリーからのメッセージを見返したおれは頭を抱えた。どうすればいい。おれはまだ見ぬ経験に不安と好奇心を燃やすのだった』
とこんな感じか。多分あと三回で終われるかな。じゃ、やってくわーー
着ぐるみ着て司会とダンスなんて無理ーーそんなことはいえるワケもなく、モノごとは流れるように進んでいるようだった。
テリーからの連絡によれば、本番前のリハーサルを含めて三回程練習すれば大丈夫だろうとのことだったのだけどーー
本当に大丈夫なのか?
何しろ殆ど素人レベルの役者ごっこをやっているようなチンピラが、やったこともない着ぐるみ演技と着ぐるみを着たダンスをやるのだ。三回の練習で何とかなるワケがなかった。
が、できないとはいえない。
とはいえ、救いもある。それは着ぐるみを着るということだ。
着ぐるみを着ればおれの顔は見えない。故にいくらミスろうがおれのミスだとわかるのは、おれが中に入ると知っている人だけだ。
加えて、ごむリンになりきるということはセリフを覚えて何かいう必要はないということでもある。これは大きかった。あとは段取りをしっかり頭に入れることだ。
取り敢えず、着ぐるみの現物は年が明けたらテリーのほうで確保するとのことだったので、年内最初のブラストの稽古で試しに着てみようということになった。
兎に角、試してみないことには何も出来ない。おれは出来れば年が明けて欲しくないなと願う全然勉強していない受験生みたいなことを思いながら、沸々と闘志を燃やすのだった。
そして、年が明けて最初のブラストの稽古。稽古途中、テリーに招かれ別で借りていた和室へいってみると、そこには大きな布袋でくるまれた巨大な球のようなモノがあり、袋を開いてみるとそこには、
ごむリンの着ぐるみが入っていた。
可愛らしい大きな頭に、全身を包むふわふわした胴体部。改めて見ると、ゴミ箱とか漁ってそうな野良犬みたいな顔した五条氏には余りにも不釣り合いだ。これを着るのか……。そう思っているとテリーが、
「五条くん、日本手拭い持ってる? 被り物する時に頭に巻くんだけど」
おれは正直にないといった。するとテリーは日本手拭いを貸してくれた。ピンク色のハートがたくさん描かれたヤツだ。こんなデストロイでノーフューチャーな風貌のチンピラにハートが描かれたピンクとは手拭いまで不釣り合い。
取り敢えず、いわれた通り頭に手拭いを巻き、ごむリンの胴体を着て頭部を被ってみる。
滅茶苦茶に視界が悪かった。
視界となる覗き穴は、ごむリンの両目の真ん中、即ち眉間の部分にあったのだけど、これが狭くて見えづらい。当然足許なんか見えたモンじゃなく、これではステージ上から足を踏み外すなんてことも当たり前に有り得る。
「どんな感じ?」テリーが訊ねた。
「……見えないっすね」
「そっか。本番は暗いからね。誰か介助の人を付けないと厳しいかもしれないね」
そういってテリーは介助の人間を探してみると約束してくれた。ありがたい限りだ。
それから着ぐるみを着て踊るダンスの動画を見せて貰うことになったーーまぁ、ダンスというより「踊り」なんだけど。
「五村梅踊り」は五村に伝わる、梅の花の付いた木の枝を模したオブジェクトを持って踊る伝統的な踊りだった。
ちなみに五村に長年住んでいるはずのおれでも初めて見たので、案外自分の地元のことでも知らないことは多いのだなと思ったり。それはさておき、五村梅踊りは民謡とあってそこまで複雑でもなければ、ハードでもなかった。確かにこれなら何度も練習はいらないだろう。
試しにごむリンの頭部を外した半生身の状態で動画に合わせて踊りをなぞってみたのだけど、これが案外初見でもついていける感じではあった。が、ことはそう簡単にはいくもんでもなかった。
というのも、着ぐるみを着ると着ないでは感覚が全然違い、そもそも生身で普通に踊れるモノも踊れなくなってしまうのだ。
多分、頭部を被ることが圧迫感というか、緊張感を生み、思考を奪っているのだろう。にしても全然動けない。動画にもついていけないし、記憶の引き出しを開けることすら困難だった。
ヤバイーーおれの脳は汗を掻いていた。
「わぁ! ごむリンだぁ!」
声のするほうを見ると、ブラストのメンバーがおれを見てレモン色の声を上げ、
「ごむリーン!」
と手を振ってくるじゃないか。おれは取り敢えずごむリンに成り切る練習として適当に手を振ってみたのだけど、
中の構造が悪いのか頭が傾くのな。
そもそも、頭が重くてバランスを保つのも結構大変だし、これは厳しい現実が待っていそうだと、おれは仮面の下で涙を流したとか流していないとかーー仮面ライダーみたいだな。
というワケで今日はここまで。次回は五村梅踊りに関してだ。まぁ、気長に待ちーー待ってねぇか。
アスタラビスタ。