【不思議な世界の五条氏】
文字数 2,682文字
アリスは白ウサギの後を追って不思議な世界へいった。
まぁ、これはルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の話なんだけど、アリスと同様、自分という人間をとある世界や業界、新天地へ誘う誰かというのは、現実世界でも当たり前に存在する。
というワケで、昨日の続きである。あらすじーー「城南大学に通う筑波洋は、とある科学者を救ったことにより瀕死状態となったが、その科学者によって肉体を改造され、過酷な戦いの世界へと身を投じることとなったのだ」
毎度毎度何が元ネタ何だよと思われるかもしれないけどね、アレなんだな。うん、調べてくれ。とまぁ、本筋のあらすじなんだけど、『ブラスト』の稽古に参加した五条氏は台本を読む楽しさを覚えつつ、インテリヤクザのような男にガン見され、背筋が震えたのだった。
こっちのほうがまともなあらすじだよな。
さて、そんな感じで今日も書いていきますかーー
稽古が終了したはいいが、どういうワケか見た目の厳つい男にガン見されている五条氏。そんな中、稽古場から出るようにアナウンスがあり、おれも稽古場を後にしようとしたのだ。
すると、案の定というか、厳つい男がおれのほうに近づいてくるではないの。
これには全身に緊張が走りまして。大学時代、如何に夜のストリートで蠢くチンピラどもを退けるかを考えつつ生きざるを得なかった五条氏もさすがに困ったものだった。そもそも、こんな場で恐喝なんて有り得ないんだけどな。
そんなこんなで、ノールックで部屋を出ようとしたのだ。すると、例の大男に肩を叩かれたかと思うと肩に腕を回されーー
「よぉ、名前、何ていうの?」
おれは戸惑いつつも自分の名前をいった。
「へぇ、アダ名は?」
補足しておくと、その劇団では年齢の上下に関係なくアダ名で呼び合うという習慣がありまして、おれも稽古の最初にアダ名はどうするか訊ねられ、大学時代のアダ名である「ジョー」と名乗っていたのだ。
何故、ジョーかって?五条の条から取ったんだよ。ついでにハーフによく間違われるっていうのもあるし、名前的にちょうどよかったんよね。まぁ、バリバリの純日ですが。
「なるほど、ジョーか。ジョーはこの後暇なの?」
まぁ、色んな意味でヤバめな展開なのだけど、衆人環視の中でそんなヤベエことなんかするわけもないんで、暇ですと答えるとーー
「じゃあ、この後、稽古のアフターがあるんだけど、来る?」
なるほど、そういうことかと密かに胸を撫で下ろし、おれはいきますと答えたのだ。
「そうか。場所は外に出たらアナウンスされるだろうから、とりあえず出ようか。申し訳ないけど、先に出ててくれないか?」
そういわれ、おれは名前も知らない大男のいうことに従って施設から出ようとしたのだ。するとーー
「初めまして、わたし、『ブラスト』の海野です。今日見学されたんですね。わたし、稽古終わりには間に合ったんですが、最初からは出られなくて。稽古は如何でしたか?」
そうおれに訊ねてきたのは、小柄な女性で、名前を「海野あおい」といった。おれはあおいと話しつつ、施設の外へ向かった。
施設の外へ出ると、アフターの場所が決まり、各々向かうこととなった。
「五条さんは、何で向かわれるんですか?」
あおいに訊ねられると、おれはロードバイクで、と答えた。
「そうなんですね。わたしも自転車なんですけど、一緒にいきません?」
おれはその申し出を受け、あおいとともにアフター会場のファミレスへと向かった。
道中あおいと話したのだが、それによると、あおいはおれのひとつ下で、五村市駅構内のパン屋で働いているとのことだった。
目的地のファミレスに着くと他のメンバーは既に中に入っており、いくつかのテーブル席に着いて待機していた。
おれは遅れましたと挨拶をしつつ適当な席に座ろうとした。が、
「おぉ、ジョー。こここいよ」
そういって自分の横を叩くのは、例の大男だった。おれはいわれるがままに大男の隣に座ることとなった。ちなみにあおいは、稽古場を取り仕切っていた女性の目の前に着いた。
「さてと、自己紹介がまだだったな。おれはショーゴ。そこにいるヨシエはおれの嫁だよ」
大男ーーショーゴさんが指したのは、稽古場を取り仕切っていた女性だった。
見学するにあたって、おれは劇団のことを予習していたのだけど、ヨシエさんはここ何年かの公演の脚本と演出を担当している人だった。
「ごめんねぇ。そこの部外者が色々と」
ヨシエさんがいった。部外者ーーそれは明らかにショーゴさんのことを指していた。詳細を訊くと、何でもショーゴさんは現在はワケあって劇団に所属はしていないのだそう。ただ、たまたま時間が出来たこともあって久しぶりに稽古場に来たとのことだった。
「まぁ、そんなことはどうでもよくてさ。ジョーは何で芝居をやろうと思ったの?」
ショーゴさんが訊ねた。おれは色々な映画を観て、色々な役者を見て自分も何かを演じてみたくなったと答えた。
それから、もし劇団に入って役がついた時の話をされたのだけど、当時、バカみたいに人見知りだったおれはクソ真面目な返答ばかりしていたのだ。結果ーー、
「おぉ、この子、うちに欲しいな!」
とショーゴさんにいわれたのだった。まぁ、ヨシエさんに、
「劇団員じゃないヤツが何いってる」
と突っ込まれていたけれど。とはいえ、おれは随分と気に入られてしまったらしい。加えて、ヨシエさんには、
「ジョー、だっけ。昔、芝居やってた?」
そう訊かれ、まったくやったことがないと答えると、
「そうなの!? てっきり経験者だけど久しぶりな人なんだと思ってた」
と結構なおことばを掛けられ、思わず恐縮してしまった。
そんな和気藹々とした空気の中、初めての劇団の稽古見学は終わった。帰り際、あおいに、
「もし次回も来られるなら、連絡先を交換しませんか? わからないことがあれば是非訊いてください。あと、稽古のことで変更があればこちらから連絡しますから」
といわれ、おれはあおいと連絡先を交換したのだった。
深夜零時前、三月のまだ冷たさ残る夜風に吹かれつつ、燃え滾る想いを胸におれは帰路へ着いたーー
とまぁ、今日はこんな感じ。次回はその続きーー見学二回目以降の話だね。
ま、ボチボチやってきますわ。
アスタラビスタ。
まぁ、これはルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の話なんだけど、アリスと同様、自分という人間をとある世界や業界、新天地へ誘う誰かというのは、現実世界でも当たり前に存在する。
というワケで、昨日の続きである。あらすじーー「城南大学に通う筑波洋は、とある科学者を救ったことにより瀕死状態となったが、その科学者によって肉体を改造され、過酷な戦いの世界へと身を投じることとなったのだ」
毎度毎度何が元ネタ何だよと思われるかもしれないけどね、アレなんだな。うん、調べてくれ。とまぁ、本筋のあらすじなんだけど、『ブラスト』の稽古に参加した五条氏は台本を読む楽しさを覚えつつ、インテリヤクザのような男にガン見され、背筋が震えたのだった。
こっちのほうがまともなあらすじだよな。
さて、そんな感じで今日も書いていきますかーー
稽古が終了したはいいが、どういうワケか見た目の厳つい男にガン見されている五条氏。そんな中、稽古場から出るようにアナウンスがあり、おれも稽古場を後にしようとしたのだ。
すると、案の定というか、厳つい男がおれのほうに近づいてくるではないの。
これには全身に緊張が走りまして。大学時代、如何に夜のストリートで蠢くチンピラどもを退けるかを考えつつ生きざるを得なかった五条氏もさすがに困ったものだった。そもそも、こんな場で恐喝なんて有り得ないんだけどな。
そんなこんなで、ノールックで部屋を出ようとしたのだ。すると、例の大男に肩を叩かれたかと思うと肩に腕を回されーー
「よぉ、名前、何ていうの?」
おれは戸惑いつつも自分の名前をいった。
「へぇ、アダ名は?」
補足しておくと、その劇団では年齢の上下に関係なくアダ名で呼び合うという習慣がありまして、おれも稽古の最初にアダ名はどうするか訊ねられ、大学時代のアダ名である「ジョー」と名乗っていたのだ。
何故、ジョーかって?五条の条から取ったんだよ。ついでにハーフによく間違われるっていうのもあるし、名前的にちょうどよかったんよね。まぁ、バリバリの純日ですが。
「なるほど、ジョーか。ジョーはこの後暇なの?」
まぁ、色んな意味でヤバめな展開なのだけど、衆人環視の中でそんなヤベエことなんかするわけもないんで、暇ですと答えるとーー
「じゃあ、この後、稽古のアフターがあるんだけど、来る?」
なるほど、そういうことかと密かに胸を撫で下ろし、おれはいきますと答えたのだ。
「そうか。場所は外に出たらアナウンスされるだろうから、とりあえず出ようか。申し訳ないけど、先に出ててくれないか?」
そういわれ、おれは名前も知らない大男のいうことに従って施設から出ようとしたのだ。するとーー
「初めまして、わたし、『ブラスト』の海野です。今日見学されたんですね。わたし、稽古終わりには間に合ったんですが、最初からは出られなくて。稽古は如何でしたか?」
そうおれに訊ねてきたのは、小柄な女性で、名前を「海野あおい」といった。おれはあおいと話しつつ、施設の外へ向かった。
施設の外へ出ると、アフターの場所が決まり、各々向かうこととなった。
「五条さんは、何で向かわれるんですか?」
あおいに訊ねられると、おれはロードバイクで、と答えた。
「そうなんですね。わたしも自転車なんですけど、一緒にいきません?」
おれはその申し出を受け、あおいとともにアフター会場のファミレスへと向かった。
道中あおいと話したのだが、それによると、あおいはおれのひとつ下で、五村市駅構内のパン屋で働いているとのことだった。
目的地のファミレスに着くと他のメンバーは既に中に入っており、いくつかのテーブル席に着いて待機していた。
おれは遅れましたと挨拶をしつつ適当な席に座ろうとした。が、
「おぉ、ジョー。こここいよ」
そういって自分の横を叩くのは、例の大男だった。おれはいわれるがままに大男の隣に座ることとなった。ちなみにあおいは、稽古場を取り仕切っていた女性の目の前に着いた。
「さてと、自己紹介がまだだったな。おれはショーゴ。そこにいるヨシエはおれの嫁だよ」
大男ーーショーゴさんが指したのは、稽古場を取り仕切っていた女性だった。
見学するにあたって、おれは劇団のことを予習していたのだけど、ヨシエさんはここ何年かの公演の脚本と演出を担当している人だった。
「ごめんねぇ。そこの部外者が色々と」
ヨシエさんがいった。部外者ーーそれは明らかにショーゴさんのことを指していた。詳細を訊くと、何でもショーゴさんは現在はワケあって劇団に所属はしていないのだそう。ただ、たまたま時間が出来たこともあって久しぶりに稽古場に来たとのことだった。
「まぁ、そんなことはどうでもよくてさ。ジョーは何で芝居をやろうと思ったの?」
ショーゴさんが訊ねた。おれは色々な映画を観て、色々な役者を見て自分も何かを演じてみたくなったと答えた。
それから、もし劇団に入って役がついた時の話をされたのだけど、当時、バカみたいに人見知りだったおれはクソ真面目な返答ばかりしていたのだ。結果ーー、
「おぉ、この子、うちに欲しいな!」
とショーゴさんにいわれたのだった。まぁ、ヨシエさんに、
「劇団員じゃないヤツが何いってる」
と突っ込まれていたけれど。とはいえ、おれは随分と気に入られてしまったらしい。加えて、ヨシエさんには、
「ジョー、だっけ。昔、芝居やってた?」
そう訊かれ、まったくやったことがないと答えると、
「そうなの!? てっきり経験者だけど久しぶりな人なんだと思ってた」
と結構なおことばを掛けられ、思わず恐縮してしまった。
そんな和気藹々とした空気の中、初めての劇団の稽古見学は終わった。帰り際、あおいに、
「もし次回も来られるなら、連絡先を交換しませんか? わからないことがあれば是非訊いてください。あと、稽古のことで変更があればこちらから連絡しますから」
といわれ、おれはあおいと連絡先を交換したのだった。
深夜零時前、三月のまだ冷たさ残る夜風に吹かれつつ、燃え滾る想いを胸におれは帰路へ着いたーー
とまぁ、今日はこんな感じ。次回はその続きーー見学二回目以降の話だね。
ま、ボチボチやってきますわ。
アスタラビスタ。