【トライアングル・イリュージョニスト】

文字数 4,847文字

 最近、ダイエットをしている。

 それに関しては昨日もちょろっと書いたのだけど、そう、最近ダイエットを始めたのだ。

 理由は単純、先日の健康診断にて、体重と体脂肪が増えたからだった。

 別に体重が増える分にはいいが、体脂肪が増えるのがどうしても許せない。

何故体重が増えるのがいいのかというと、トレーニングをする上で体重があると、それだけ自重で掛かる負荷も増えるからだ。

 しかし、いくら負荷を増やして身体を鍛えたところで、贅肉があっては、その鍛えられた身体も肉だるまにしか見えなくなる。

 おれは過去、何度となく一〇キロ太っては一二キロ痩せるみたいなことをしてきたので、痩せることには何の抵抗もないし、辛さなどこれっぽっちもないのだけど、体重を残しつつ脂肪を落とす方法がないかと未だに模索している。

 そりゃ、今そこにある自分の体重には当然自分の脂肪の分も含まれているのだから、脂肪が消えれば、その分の体重も消えるのは必然で。

もし、脂肪を減らしつつ、体重を維持するなら、脂肪を減らした分筋肉をパンプアップさせなければならないのだけど、それも難しい。

 結局のところ、多少の犠牲ーーいわゆるコラテラル・ダメージはつきものなのだ。

 コラテラル・ダメージ、目的を達成するために生じる致し方ない犠牲である。何かを達成するためには、何かを犠牲にしなければならない。それは、時にはお金であったり、時には自分の肉体、命であることもある。

 そして、それはまた別のモノでもーー

 あれは中学三年のことだった。体育祭も終わり、漸く肩の荷が降りたおれは、受験生として相変わらず忙しい日々を過ごしていた。

 平日は学校へ通い、それが終わると夜遅くまで塾でさらに勉強する。土曜も朝から夜まで塾で、唯一の休みといえば日曜くらいなのだが、その日曜も朝から図書館なので、兎に角勉強、勉強ーー勉強といった感じだった。

 まぁ、そんなことだから当然のようにフラストレーションも溜まり、精神的にも疲弊しているのは自分でもわかっていた。

 そんなこともあって、学校では授業を真面目にやりつつ、それ以外の時間は頭の悪いことをやって過ごしていた。元から頭が悪い?ーーその通りやね。

 とはいえ、唐突にケンカを売ってくる見せ掛けだけの不良を投げ飛ばしたり、おれを見つける度に肩を殴ってくるデブの足を蹴り飛ばしたりと、勉強疲れのストレスも相まってか、過激なことも結構やっていた。まぁ、問題にならなかったからよかったけど、普通にダメよな。

 上記のように書くと結構暴力的な印象が残るかもしれないけれど、その当時はちょうど総合格闘技が流行っていた時期で、テレビでもK-1やPRIDEといった格闘技イベントの中継もやっていて、みんな血に餓えており、おれもそのひとりでしかなかったというわけだ。

 それはそれでいいんだけど、如何せん、娯楽といえるものがテレビぐらいしかなくて、困ったものだった。

ゲームもやろうと思えばやれたのだけど、受験期のゲームというのは、どうにも気分が乗らなかった。というのも、当時はまだ「ゲーム脳」とかいう都市伝説が猛威を奮っていたお陰で、受験生でゲームをやるとは何事かみたいな風潮があったのだ。なーにが「ゲーム脳」だ、馬鹿バカしい。

 それもあって、娯楽は自分で作り出さなければならないような状況になってしまったのだが、そんな中、話題性に欠かなかったのが小野寺先生だった。

 小野寺先生といえば、以前も登場した、生徒に自分のホームページの掲示板を荒らされまくり、閉鎖に追い込まれてしまったという、しがない英語教師だ。

 まぁ、この小野寺先生、実はサイトでの話以外にも可笑しなエピソードがあるのだが、今回はその内のひとつを紹介しよう。

 ある日の授業のことである。

 小野寺先生の授業は、他の教員の授業と比べると、どことなくキャッチーでポップな雰囲気があったこともあって、生徒たちからはそれなりに人気だったのだ。

 かくいうおれも、中学二年の終わりくらいまでは普通に好きな授業だったのだが、ある事件が切っ掛けとなり、小野寺先生という人はヤバいと思うようになり、それ以降は好きでも嫌いでもないといった中立的な立場でいた。まぁ、その事件に関してはまた後日。

 さて、そんな感じでその日も何となく小野寺先生の授業を受けていたのだ。その日は英語のリスニング強化の授業で、学校の備品であるCDコンポにて、授業は進められた。

 で、授業も終わり、小野寺先生も帰っていったのだけど、おれは見つけてしまったのだ。

 学校の備品であるCDコンポがそこにあるのを。

 これには五条氏の悪意に満ちた脳細胞も活性化ですよ。本当なら、すぐにでも職員室へ届けるべきなのだけど、おれはそのコンポをーー

 教室前方にあるガラス棚へと仕舞ったのだ。

 ガラス張りで、コンポがあるのが丸見え何だけど、これに関してはおれも対策を考えており、もし仮にブタさんに「これは何なのぉ?」とか訊ねられても、

「小野寺先生の忘れ物です。無くなったらマズイので保管しておきました」

 というつもりだったのだ。まぁ、保管してないで、職員室持ってこいって話だけど、この当時はクソガキもいいところだし、「あ、そうでした」といって逃げるつもりでいた。

 そんな感じで、クラスメイトやブタさんの様子を見ることにしたのだけど、

 誰も気づかないのな。

 そう、誰も棚の中など見ちゃいなかったのだ。これにはおれも辟易としてしまいーー

 自らコンポの存在をいうことに。

 当時のおれの席はちょうどその棚がある目の前にあったのだけど、試しにおれの横に座っている山口さんという女子にそのことを話してみることにしたのだ。

「ねぇ、あそこにあるアレ、どこかで見たことない?」

 そういってコンポを指差すと、山口さんはコンポを発見ざま、「ぶわっ!」ととんでもない驚きの声を上げてました。

 それから事情を訊かれたので、ちゃんと小野寺先生の忘れ物で、そのまま保管することにしたと伝えておきました。

 それと、当時おれのうしろに座っていたキャナにも、コンポの存在を伝えておいたんですが、

「ぶはっ! 学校の備品忘れるとか!」

 と爆笑しておりました。そりゃそうよな。

 そんな感じで忘れ去られそうなコンポの存在を自ら話していたのだが、数日して、再び小野寺先生の英語の授業の時間がやって来たのだ。

 おれは小野寺先生がどう出るか、こころを踊らせていたのだけど、教室にやって来た小野寺先生はーー

 また別の備品のコンポを持参してきたのだ。

 これには五条氏のアゴも外れそうになった。まだあったのか。そう思いつつ負け惜しみも兼ねて、棚で眠るコンポを指差して山口さんに、

「ん? アレは何だ!」

 とか、

「あっ! UFOだッ!」

 とか、

「あれ? あの棚に入ってるヤツ、机の上のアレと同じじゃない?」

 とかやっていました。山口さんは笑いを堪えながらおれの二の腕を何度も叩いていました。一体、何があったのやら。

 どこか敗北したような気分で授業を終え、小野寺先生が去った後に黒板を消そうとしたのだ。がーー

 また、備品のコンポが残されているではないの。

 目を疑った。棚の中のコンポはーーある。では、これは……。

 二個目の忘れ物である。

 これには五条氏も悪意に満ち満ちた笑みを浮かべて、棚の中のコンポにふたつ目のコンポを積み重ねたのだ。

 そのコンポは珍しいことに直角三角形のフォルムをしており、ちょうど直角部分が上に来る設計となっていたのだけど、それを同じ辺が重なるように重ねたもんだから、

 見事な平行四辺形ができあがったのだ。

 これには五条氏もご満悦で、早速山口さんとキャナに報告しました。キャナは相変わらず、

「ぶはっ! また忘れたのかよッ!」

 と笑っていました。山口さんは「返してあげなよ」とかいいながら笑いを堪えていました。

 こうなると楽しみなのは、次の英語の授業だ。棚の中の平行四辺形もブタさんや他の生徒に気づかれることもなく、時間は川の流れのように過ぎていった。

 で、数日後、再びの英語の授業である。もうね、授業前からニヤニヤが止まらなかった。次はどんな展開になるのか、と自分でも楽しみで仕方なかったのだ。

 チャイムが鳴り、小野寺先生が入ってくる。するとーー

 またもや備品のコンポを持っているではないか。

 これにはおれも笑いが止まらなくなりそうになった。でも、おれは笑いたい気持ちを圧し殺し、平行四辺形のCDコンポを指差しながら山口さんに、

「ねぇ、おれ数学苦手なんだけど、平行四辺形ってあんな感じ?」

 とか、

「直角三角形をふたつ組み合わせると平行四辺形になるんだって」

 とか、

「机の上のヤツに似たのが、あそこにふたつもあるよ!」

 とかいってみたのだ。そしたら、山口さんは顔を真っ赤にし、目に涙を貯めて笑いを堪えていました。誰が彼女をこんなに苦しめているんだ! おれはソイツを絶対に許さないッ!

 とまぁ、もはやここまでくると自分でも何やってんのかわかんなくなるのだけど、小野寺先生は何とーー

 またもや備品のコンポを忘れていったのだ。

 ここまで来ると、ネタに走っているとしか思えず、忘れ物のコンポ三つ目を棚に仕舞い、平行四辺形+直角三角形というよくわからない形が出来上がってしまったのだ。

 キャナも笑いながら呆れていました。山口さんは吹き出していました。もう止めようぜ、こんな戦争は!

 とまぁ、それから数日、相変わらず平行四辺形+直角三角形はクラスの人間には気づかれず、またもや英語の授業となった。がーー

 小野寺先生は手ぶらでやって来たのだ。

 どうしたのだろうと思い、平行四辺形+直角三角形を指差して山口さんに、

「アレは何だ!」

 とか、

「今日はアレ、持ってきてないんやね」

 とか、

「もしかして、アレが必要なんか? 三つもあるし、ひとつ貸してあげようぜ」

 とかいってました。山口さんはもはや笑いを我慢しすぎて窒息しそうになってました。

 で、まぁ、そんな状況の中、小野寺先生は始業の挨拶も早々に、こういい放ったのだ。

「いやぁ、学校の備品のコンポ、全部なくしちゃったよ、ハッハッハッ!」

 笑いごとじゃないだろ。

 学校の備品を三つも無くしてたら、それこそ問題だらうに。

 まぁ、そんなんなんで、とうとう、平行四辺形+直角三角形に別れを告げる時がきたのだ。

「先生、前回の授業でコンポ忘れていかれたんで、ここで保管しておきましたよ」

 まぁ、バレバレもいいところなんだけど、小野寺先生は、

「おぉ! 五条、ありがとう! 助かったよ!」

 とのこと。これをマジでいっていたとしたら、流石にヤバいぞ。まぁ、そんなこともあってか、山口さんもキャナも声に出して笑ってました。救われたなぁ。

 授業後、小野寺先生は三つの直角三角形のコンポを抱えて職員室に帰っていきましたとさ。誰も小野寺先生を手伝わないとか。

 まぁ、これ以降はこんなことはなかったんだけど、おれの二学期の英語の成績ですが、中間期末と九〇点以上取ったにも関わらず、成績は四でした。もう、これはねーー

 コンポの件、おれが主犯って気づいてたろ。

 まぁ、そんな感じで、五条氏はネタと引き換えに英語の成績を犠牲にしたのでした。チックショー!

 出過ぎた真似はするべきではないな。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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