【藪医者放浪記~伍拾睦~】
文字数 1,184文字
厚意からの忠告というのはろくな結果をもたらさないことが多い。
理由としては、それが「余計なお世話」になりがちだからだ。確かに見識のあって、立派な人がする忠告であれば、それほど貴重で聴く価値のあるモノはないだろう。
だが、問題はそういった忠告をしがちなのは、大抵周りが見えていない人間だということだ。或いは自分を棚に上げる人間。ともなると、その忠告はむしろ、お前にいいたいよと反感を買いがちになる。
そう、大した実力者でもない、いわゆる小物のようなヤツに限って人に求めていない忠告をする傾向にあるということだ。
それは結局のところ、自分が優れていると錯覚したいか、既にそう錯覚しているか、相手を自分より格下だと思っているか、自分よりも格下を意図的に作りたいと思っているかでしかない。まぁ、中には本心から人のために、といっていることもあるが、それは珍しくかつ空回りしないことが少なくない。結局は余計なお世話をいう人間というのは往々にして大した実力は持っていないというのが相場である。
だが、問題はこの逆である。
というのは、忠告する者がまごうことなき実力者であるという場合だ。この場合は大抵は剣術や柔術といった師範が門下の人間に対して行うモノであるが、これは忠告者が実力者であるが故に信用に値する場合が多い。
或いはそういった場合でなくとも、確かな見識の持ち主で、ある何かの経験者であれば、その忠告は信用するに足るだろう。
だが、問題は聴き手のほうだ。
これが信用に足らない、人の話を聴こうとしない者だったら、それこそ忠告するだけ時間の無駄というモノだ。それはいうまでもなく、話を聴くワケがないから。
さて、そんな話を聴きそうもないのがひとり、ここにいるということだ。
「止めとけとはどういう意味だ!」
藤十郎は怒りの矛先を猿田に変えたかのようにいった。そもそも、どんな事情があろうと藤十郎が猿田の話を聞くはずがなかった。猿田は困惑していったーー
「いや、何というか......」
「わたしには勝てない、とそういいたいのか!?」
「え?」猿田は曖昧に頷いた。「......えぇ」
「貴様、わたしを愚弄するのか!」
「いえ、そんなことではなくて!......そもそも、藤十郎様は決闘するとして刀をお使いになるでしょう? リューさんはどうするんです? 刀、持ってませんが」
「貸してやれ」
「はぇ?」猿田は声を裏返して、表情でも驚きを表した。「ですが、リューさんは刀は」
「関係ない!」
これには完全に猿田も困ってしまったようで、唖然とするばかりだった。そして、ため息をつくと、仕方がないといった様子で、
「刀でなくともよろしいですか?」
「一向に構わんが、その代わりーー」藤十郎は不敵に笑った。「貴様はここにいる牛野と勝負しろ!」
猿田と寅三郎は、えっと声を上げ、互いの顔を見合せた。
【続く】
理由としては、それが「余計なお世話」になりがちだからだ。確かに見識のあって、立派な人がする忠告であれば、それほど貴重で聴く価値のあるモノはないだろう。
だが、問題はそういった忠告をしがちなのは、大抵周りが見えていない人間だということだ。或いは自分を棚に上げる人間。ともなると、その忠告はむしろ、お前にいいたいよと反感を買いがちになる。
そう、大した実力者でもない、いわゆる小物のようなヤツに限って人に求めていない忠告をする傾向にあるということだ。
それは結局のところ、自分が優れていると錯覚したいか、既にそう錯覚しているか、相手を自分より格下だと思っているか、自分よりも格下を意図的に作りたいと思っているかでしかない。まぁ、中には本心から人のために、といっていることもあるが、それは珍しくかつ空回りしないことが少なくない。結局は余計なお世話をいう人間というのは往々にして大した実力は持っていないというのが相場である。
だが、問題はこの逆である。
というのは、忠告する者がまごうことなき実力者であるという場合だ。この場合は大抵は剣術や柔術といった師範が門下の人間に対して行うモノであるが、これは忠告者が実力者であるが故に信用に値する場合が多い。
或いはそういった場合でなくとも、確かな見識の持ち主で、ある何かの経験者であれば、その忠告は信用するに足るだろう。
だが、問題は聴き手のほうだ。
これが信用に足らない、人の話を聴こうとしない者だったら、それこそ忠告するだけ時間の無駄というモノだ。それはいうまでもなく、話を聴くワケがないから。
さて、そんな話を聴きそうもないのがひとり、ここにいるということだ。
「止めとけとはどういう意味だ!」
藤十郎は怒りの矛先を猿田に変えたかのようにいった。そもそも、どんな事情があろうと藤十郎が猿田の話を聞くはずがなかった。猿田は困惑していったーー
「いや、何というか......」
「わたしには勝てない、とそういいたいのか!?」
「え?」猿田は曖昧に頷いた。「......えぇ」
「貴様、わたしを愚弄するのか!」
「いえ、そんなことではなくて!......そもそも、藤十郎様は決闘するとして刀をお使いになるでしょう? リューさんはどうするんです? 刀、持ってませんが」
「貸してやれ」
「はぇ?」猿田は声を裏返して、表情でも驚きを表した。「ですが、リューさんは刀は」
「関係ない!」
これには完全に猿田も困ってしまったようで、唖然とするばかりだった。そして、ため息をつくと、仕方がないといった様子で、
「刀でなくともよろしいですか?」
「一向に構わんが、その代わりーー」藤十郎は不敵に笑った。「貴様はここにいる牛野と勝負しろ!」
猿田と寅三郎は、えっと声を上げ、互いの顔を見合せた。
【続く】