【ナナフシギ~参拾参~】

文字数 1,194文字

 力なく倒れる鮫島は目を見開き笑みを浮かべたまま痙攣していた。

 何とも不気味な光景だった。そしてそれを冷酷な視線で見下ろす弓永と、そんな弓永と倒れた鮫島を見る森永。森永は腰を抜かして全然動けないといった様子で、顔の筋肉は恐怖と緊張でやはり痙攣していた。

「鮫島......」そう呟くと、森永は弓永を批難するように見た。「何てことすんだよ」

「何てこと、だぁ?」弓永はゴミを見るような目で森永を見た。「テメェはこの野郎にどうされても構わねぇってのか?」

「それは......」ことばを失う森永。

 森永としても複雑な心境であったに違いない。いくら目の前にいるのが友人が化け物じみた様相となって襲い掛かって来ても、それが友人であることには代わりはない。そんな友人を一撃殴られて黙ってはいられないのは当たり前のことだろう。だが、弓永はそんなことはお構いなしにいった。

「仮に、だ。テメェはコイツが自分の意思を失くした人喰いのゾンビになって襲って来ても何もしねえつもりか?」

「それは......」森永はことばを失い掛けはしたが、大きく息を飲み込むと悪あがきするようにことばを継いだ。「そんなん、お前の妄想じゃんか! 鮫島がゾンビになったなんて、そんなことは関係ないだろ!」

「じゃあ、お前はこの野郎を見て何も感じないって、そういうのか?」

 森永は答えに窮し黙り込んでしまった。そんな森永を見て、弓永は鼻で笑い、真下で痙攣している鮫島の腹を一撃強めに蹴った。鮫島は目を見開き笑みを浮かべたまま不気味な笑い声を軽く上げた。ハッとする森永。

「お前!」

 森永は弓永を止めようとしたが、逆に弓永が森永の動きを手で制止しようとした。流し目で森永を見る弓永ーーその目は絶対零度の冷たさを持ち、人を人とも思わないような残酷さが伺えた。

「こんな蹴られて不気味に笑っていられるようなヤツがテメェの友達だって、本当にいえるのか? どう見たって化け物だぞ?」

「でも......!」森永は尚も反論の姿勢を取った。「でも、ソイツはおれの......」

「おれの、何だ?」黙り込む森永を追い詰めるように、弓永は更にいった。「お前は友達になら殺されてもいいって、そんなお人好しのバカなのか? 本当にイカレた友達のためなら自分の命を差し出せるのか?」

 弓永の問い詰めに対し、森永は何ひとつ答えることが出来なかった。確かに難しい問題だ。仮に友達であろうと、狂って自分を襲って来たら、それは本当に友達といえるのか。かつていた友達は、もうそこにはいない。そういえなくもないのではないか。

 弓永に迷いはなかった。仮にそれが別に特別仲の良いクラスメイトでなくとも、自分の脅威となるなら、容赦なく潰す。それこそが弓永少年の流儀だった。

 と、突然、痙攣していた鮫島が喚きだした。森永は鮫島の名を大きな声で呼んだ。

 鮫島は突然、砂になって消え去った。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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