【帝王霊~捌拾捌~】

文字数 1,078文字

 基本的に人に過度な期待をするのは間違いだと思っている。

 それはおれ個人が散々勝手に期待され、勝手に失望されてきた経験があるからこそなのだと思う。そもそも、最初は大抵軽んじられていたのに、手を返したように褒められ期待されるのは本当に不愉快で仕方がない。そのくらいならずっと黙ってて欲しいモノだ。

 だからこそ、おれは人に期待することなど何もない。過度に良いとも思わなければ、悪いとも思っていない。

 期待して欲しい人からしたら本当に冷たい人間でしかないが、そうでなければ今リアルタイムでどうなのかをしっかりと見たほうが絶対的にいいのはいうまでもないと思うし、そうしたほうが気も楽になると思う。

 ヤエ先生が川澄の中学校で国語の先生をやっていると聴いたのは、休憩の時間だった。

 ヤエ先生は、動きとしてはやはり素人そのものだった。まぁ、左に刀を差して、それを正座した状態から刀を抜いて切り付けるなんて動作、普通は簡単に出来るモノではない。ちなみに運動能力としては、ちょいと鈍くさい部類に入るかな、といった感じ。

 だが、ヤエ先生は教えること一つひとつに対して真剣に受け取り、改善していこうとしていた。人間、運動能力の良し悪しは個人差あるが、人の話を真剣に聴けるかどうかは運動能力に関係ない。もちろん、それは人間性の話で、そこには個人差があるのだけど。

 休憩中に何故居合に興味を持ったのかと訊ねると、「何だかそういうのって憧れるじゃないですか!」とのこと。ちなみに剣道ではダメらしい。というのも、ちゃんとそういう刀の形をしたモノを持ってやってみたいということだった。まぁ、わかる。おれもやるんだったら本物の刀ーー或いはそれに準ずるモノに触れてみたかったから。

 稽古が終わるとヤエ先生は師匠とおれに頭を下げて元気良く「ありがとうございました!」といって去って行った。師匠にヤエ先生はどうだったかと訊かれると、おれは明るくてとても真面目な人だと思った通りのことを答えた。

 ただ、また来るかどうかは別問題。案外、来そうだと思った人に限って次はなかったりする。だからこそ、おれはヤエ先生が次来るか何て考えもしなかった。

 が、ヤエ先生は来た。

 翌週、朝の弱いおれが道場に遅れて行くと、ヤエ先生はジャージ姿で師匠の刀を抱えて待っていた。それからおれの顔を見ると「おはようございます!」と元気よく挨拶してきた。おれは呆然と適当な返事をするしか出来なかった。

 そして、また師匠にいわれてヤエ先生の指導に回ることとなった。

「よろしくお願いします!」

 おれは思わず笑ってしまった。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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