【冷たい墓石で鬼は泣く~捌拾壱~】
文字数 553文字
「来なかった!?」
次の日、わたしが野武士は来なかったというと一堂は驚きの声を上げた。それは村長の平蔵も同様だった。
「来なかったとは、本当に何も来なかったのか!?」平蔵はわたしのことを信じられなかったようだった。「何かは来たんじゃないなか!?」
「何か、とは?」
そう訊ね返すと平蔵は狼狽した。それもそうだろう。本当は野武士ではなくオオカミだなんて、いえないだろうーーとはいえ、無意識の内に野武士ではない別の存在であると告白してしまっているようなモノだが。
「そちらのいうことによれば、昨日が野武士らの来る日とのことだったが」
平蔵は何かをいおうとしたが、すぐさま何かの間違いだったのかもしれないと訂正した。わたしはそれに取り合う気はなかった。
「兎に角、これでわたしと主らとの契りは解消されるワケだ。メシのほうはありがたく頂きました。では、これにて」
そういってわたしは立ち上がろうとした。が、やはり平蔵はわたしを呼び止めた。わたしはうしろに意識を飛ばしたのみで振り返りはしなかった。
「今日だ! 今日来るかもしれぬだろ! だから、今日、明日、いや明後日! それでも来ないというのなら、主にメシだけではない、銭をくれても構わない!」
わたしはそこで初めて振り返った。わたしの表情が変わることはなかった。
【続く】
次の日、わたしが野武士は来なかったというと一堂は驚きの声を上げた。それは村長の平蔵も同様だった。
「来なかったとは、本当に何も来なかったのか!?」平蔵はわたしのことを信じられなかったようだった。「何かは来たんじゃないなか!?」
「何か、とは?」
そう訊ね返すと平蔵は狼狽した。それもそうだろう。本当は野武士ではなくオオカミだなんて、いえないだろうーーとはいえ、無意識の内に野武士ではない別の存在であると告白してしまっているようなモノだが。
「そちらのいうことによれば、昨日が野武士らの来る日とのことだったが」
平蔵は何かをいおうとしたが、すぐさま何かの間違いだったのかもしれないと訂正した。わたしはそれに取り合う気はなかった。
「兎に角、これでわたしと主らとの契りは解消されるワケだ。メシのほうはありがたく頂きました。では、これにて」
そういってわたしは立ち上がろうとした。が、やはり平蔵はわたしを呼び止めた。わたしはうしろに意識を飛ばしたのみで振り返りはしなかった。
「今日だ! 今日来るかもしれぬだろ! だから、今日、明日、いや明後日! それでも来ないというのなら、主にメシだけではない、銭をくれても構わない!」
わたしはそこで初めて振り返った。わたしの表情が変わることはなかった。
【続く】