【夜闇にまぎれて~弐~】

文字数 1,034文字

 地元にはいつだって独特の雰囲気がある。

 まぁ、おれが今住んでいるのも地元といえば地元なのだけど、実家のあるエリアとは全然違う場所なこともあって、実家近辺に行くとやはり懐かしさは感じるモノだったりする。

 それに最近は芝居の関係で都内にいるのが殆どで外夢にいるのもほんの一瞬というのが多い。それはそれで忙しくていいことではあるのだけど、ふとした瞬間に都内のゴミゴミとした空気から抜け出して外夢へと帰りたくなることもザラにある。

 しかも、基本は稽古場との往復であって、都内で何かを楽しんでいるワケではない。楽しみといえば、昼時にたまに行く外食くらい。そんなメシも基本的にはコンビニで適当におにぎりでも買って食うのが殆どなので、それはそれで味気ない。

 そんな生活をしていれば、マインドも疲れ果てて、フラりとどっかへ行きたくもなるモノだ。そして、おれはまた地元に戻って来た。パニックになった時はずっと居座っていた場所で、街を出るまでの何マイルかがとてつもなく遠く感じられたというのに、今では外からここへと帰ってきている。

 初詣に行こうと考えはしたモノの、おれの足は外夢のストリートエリアーーいってしまえば駅前へと向かっていた。駅前も人は殆どいなかった。いてもこんな年始の深夜に勤務している悲しい警察官ぐらいで、あとは牛丼屋でひとりメシを食う若いのとオジサン。

 そもそも電車はとっくに終電を迎えているし、駅に用事があるのなんて、おれみたいなゾンビぐらいだろう。

 しかし、こんなにゆっくりと駅の景色を眺めるのも久しぶりかもしれない。シャッターの閉まっている駅の出入口前のバルコニーではアコースティックギターを弾きながら自前であろう曲を歌うミュージシャンの姿があった。年の始めだというのに、もう自分の活動に精を出している彼が何だか羨ましかった。おれは基本的に年末年始は稽古がないようにしたいというナマケモノな性分なので、今は今でエンジョイしているのだが、これくらいストイックになってもいいのでは、と時々は思う。まぁ、おれが真剣になることはこの先一度もないだろうが。

 ふと、左を見た。真っ暗で幽霊のように佇む市民センターが見えた。おれもかつてはあそこで『ブラスト』の一員として活動していたのだ、とふと懐かしくなった。もう戻ることはないが、ノスタルジアは新年の澄んだ空気の中で弾けて消えていく。

 久しぶりにゆっくりと駅のほうへ来たのだ。なら、久しぶりにーー

 おれは歩きだした。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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