【ごむリンと呼ばないで】

文字数 2,793文字

 馴染みのない場所へいくのは難易度が高い。

 これはこの駄文集で結構話していることではあると思うけど、やはり馴染みのない場所にいくというのは毎回とてつもない緊張感に全身を縛られるような感覚がして気持ちが悪い。

 おれという人間は、初めての人と上手くやれるという時もあれば、それが苦手だという時もあって発言が一貫していない時もある。

 とはいえ、それは発言がブレているのではなくどちらも事実だったりするので自分としてもかなり困ったモノだったりする。

 ただ、同時に自分の顔が見えているか否かでも大きく変わってくるのではないかとも思う。

 さて、そんな感じで『ごむリン篇』である。本日はリハーサルの話をしていこうかと思う。あらすじーー

『ごむリンの着ぐるみが女性専用のサイズだった。とんでもなく驚愕な事実を突き付けられた五条氏は、それでも踊りの先生である藤崎先生から踊りの稽古を乞うのだった』

 とこんな感じか。じゃ、やってくわーー

 二度目の踊りの稽古も無難に終わり、後はリハーサルと本番を待つまでになった。が、ブラストの長老であり創立者ーーこの当時で八〇歳!ーーの熊川さんがおれにこういったのだ、

「五条くんねぇ、本番前日の芸術祭一日目もマスコットとして会館内を回って貰うけど大丈夫だよね?」

 全然大丈夫じゃないんですが、それは。

 まったく聴いてない話に流石の五条氏も曖昧なスタンスを取ることしかできなかったよね。ただ、ここでひとつ救いだったことがあった。それは、リハーサル一週間前に来たテリーからのこんなメッセージだったーー

「本番ですが、サイズLの着ぐるみを調達できることになりました。あと、介助としてあおいちゃんがつくことになりました。よろしくお願いします」

 これには胸を撫で下ろしたよな。あの大リーグボール養成ギプスをつけずに本番が迎えられるのは大きい。

 確かにサイズが違う上にまったく着たことのない着ぐるみになることはネックだったが、本番前日とリハーサルで着た感じを身体に染み込ませることもできるだろう。

 プラス、介助にあおいがつくと考えると、かなりこころ強かった。おれはリハーサル前日まで踊りの動画を見返しながら、踊りの練習に励んだ。

 リハーサル当日、金曜日の夜ということもあってか五村の駅前ストリートは喧騒に満ちている。そこから少し外れた市民会館エリアもウィークデーが終わった喜びで溢れ返っていたーーおれ以外は。

 指定された時間に市民会館に入り、熊川さん、テリー、あおいと合流した。簡単な挨拶が終わるとテリーから数枚の書類が渡された。当日の司会進行の書類だった。

 書類には赤ペンでかなりの加筆修正がなされていた。テリーは、

「上から全部の幕間でごむリンとの掛け合いをするよういわれてたんだけど、五条くんも踊りや初めて着る着ぐるみで大変だろうから何とか踊りの前後のふた間にまで出番を絞れたよ」

 本当に助かる話だった。正直、テリーとの打ち合わせもちゃんと出来ていない中でやったことのないことをアレもコレもできる気はしていなかった。

 まぁ、単純に出番が減ったということなのだけど、今回はセリフもない上、着ぐるみという鎧に身を隠している分、出番は少ないほうが圧倒的に楽だった。

 これが普通の芝居なら、出番は多いほうがいい。それは目立つからではなく、単純に緊張感が持続できる分、変なミスをする恐れも減るからだ。大体セリフをトチるのは出番が少ない時のほうが多い。それはさておきーー

 テリーや熊川さん、あおいとともに、芸術祭実行委員のトップであり、五村文化連合の事実上のとっぷりである森村さんという女性に挨拶をしにいった。

 森村さんは老齢ではあるが、パワフルでどことなく感じのいい人だった。おれは森村さんに、

「ごむリンを担当します。五条です」

 と挨拶した。正直、自分でも何をいってるのかって感じではあったのだけど、そう、おれごむリンなのよな。

 挨拶を終えると、森村さんを含めたその場のメンバーとリハの段取りを確認した。おれは五村梅踊りの前後の幕間でのテリーとのやり取りもあったのだが、

 そこのリハは全カットになった。

 つまり、そこはぶっつけ本番とのことだった。

 これには思わず笑いながら、ウソだろといってしまったのだけど、森村さんは涼しい顔で、

「ほんとです」

 いや、否定してくれよ、それは。まぁ、そんな感じでテリーとのやり取りは完全なアドリブでやらなければならなくなったのだけど、踊りだけはリハができるとのことだった。

 着ぐるみなしでな。

 何でも、位置を確認するだけなので、着ぐるみは必要なしとのことだった。踊り自体も全部通すワケでもなければ、おれの出番も踊りの後半のみなので、大方の位置調整ができればいいとのことだった。

 ただ位置調整なら照明の関係もあるし、余計に着ぐるみを着る必要があるのでは、とも思い、そう発言したのだけど、必要なしとのこと。大丈夫なのか?と思ったよね。

 森村さんとのやり取りを終え、取り敢えず控え室にて大きいサイズの着ぐるみを確認してみた。形からして、女性専用のサロペット型の胴体ではなく、背中のチャックを締める着込むタイプの衣装になっていた。着心地はバッチリ。動いても窮屈さはない。

 頭部も視界のための穴の場所がマイナーチェンジしたくらいで特に問題はない。むしろ、女性専用サイズより扱いが楽なくらいだった。頭部を被ると腕も肘から先しか動かせなかったが、動きが制限される分、動く労力も減って楽なぐらいだった。テリーと幕間の簡単な打ち合わせをし、後はリハを待つだけとなった。

 リハ前となった。藤崎先生と五村民謡会の方々に挨拶し、自分の出番を待つ。民謡会の女の子たちに、

「ごむリンさん頑張って下さい!」

 といわれたのは流石に照れ臭かった。何だよ、ごむリンさん頑張って下さいって。

 梅踊りも進行し、舞台監督の指示に従っておれも登場する。

 青のパーカー姿でな。

 そんな場違いな格好でセンターに立つモンだから客席に座って眺めている実委の人や他の団体の人も、誰だ?といった感じでおれを見たのだけど、舞台監督が、

「ごむリンさん、ここまでで何か問題はありますか?」

 といった感じで問い掛けてくれたお陰か、おれがごむリンだとわかったらしく、あぁみたいな納得の声が聴こえて来たんだけど、

 やっぱ何か恥ずかしいよな。

 そんな恥ずかしさに耐えながら、何とかその日のリハは終了。帰り際、色んな人から、

「ごむリン頑張ってね!」

 と声を掛けられたんだけど、やっぱ何かごむリンって呼ばれると気恥ずかしいというか。着ぐるみアクターって裏ではこんな感じなんかなと思う五条氏だったーー

 と、今日はこんな感じ。次回は、芸術祭一日目。いけたら二日目も書くわ。取り敢えず、

 おれをごむリンと呼ぶのは止めてくれ。

 アスタラビスタ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み