【穢れたチンピラに花束を】

文字数 2,855文字

 自分は何の価値もない人間だとお思いではないだろうか。

 中にはそういう風に考える人もいる。というか、このハードコアな世の中では、自分など何の役にも立たない、価値のない人間だと考える人も少なくはないと思うのだ。

 だが、その人が考えているように、その人は本当に役に立たない、価値のない人間なのだろうか。おれはそうは思わない。

 人間、生きている限り、良くも悪くも人に影響を与えるモノだ。だからこそ、生きている限りは人に迷惑も掛けるし、人の為にもなる。

 人は他人との付き合いを絶って生きることは出来ない。山籠りしている仙人でもない限り、完全なひとり身として生きるのは不可能だ。

 結局、どう足掻いても人は人に何かしらの影響を与えるように世の中は出来ているのだ。

 かくいうおれだが、基本的に人を不快にさせるネガティブな価値しかないゴミのようなチンピラでしかないというのは先刻ご承知だろう。

 役者としても物書きとしても個性がなければ、上手さも技術もないし、誰かに必要とされることもない。まぁ、逆にそれだから好き勝手やっているんで、それはそれで悪いことではないんだけども。

 仕事でもいいように使われはするが、別にマストで必要というワケでもなく、代えを用意しようと思えば一日二日で用意できるだろうというちっぽけな存在でしかない。

 プライベートでもおれを必要とする恋人もいないし、友人はいても、別におれが絶対的な存在というワケではないし、いなくても友人間のコミュニティは余裕で成立してしまう。そう、おれはその程度の存在でしかないのだ。

 所詮おれは有象無象。個性のないのっぺらぼう。働きアリにもなれない怠け者のキリギリス。誰からも必要とされず、誰かに取っての絶対的な存在にもなり得ない。おれが席を退けば、おれより有能な誰かがその席に座る。それだけの話。おれはマストな存在ではない。

 だが、おれはそれでいいと思っている。別に誰かにとってのキーパーソンにはなりたくないし、なりたいとも思わない。かけがえのない存在にもなりたくないし、なりたいとも思わない。代えが利くならいつでもどうぞ、だ。

 まぁ、そんなことばかり考えているからこそ恋人にも恵まれなかったのだろうけどな。

 おれと別れれば、相手は別の男とくっつく、それだけの話。おれはマストな存在じゃない。そんな考えだからこそ恋愛も長くは続かない。ある種の病気だよな、これ。

 とはいえ、昔はおれにも人並みに誰かから必要とされたいという想いがあったワケだ。というか、誰かに必要とされたいと思うのが人にとって自然なことなんだろうけどな。

 だけど、それもパニックだったり、色恋の失敗だったり、あらゆるコミュニティでの内ゲバだったりとで自分が絶対的な存在として君臨することは金輪際ない、自分は必ずしも必要な人間じゃないとわかってしまったのが切っ掛けとなって、止めてしまったのだけどさ。

 ただ、そうやって人から好かれよう、必要とされる人間になろうという無駄な努力を止めたら止めたで凄く楽になった。そもそも、好かれたい、必要とされたいってのは、欲望というよりは殆ど強迫観念みたいなモンだしな。

 それに、好かれたい、必要とされたいと思えば思うほど、そう思って行動すればするほどに人から嫌われるように思えてならないのだ。

 何というか、そういう人って、芯がないというか、自分がないというか、地に足がついていないというか、毒にも薬にもならないというか、揺れる幻影のように存在が朧気で頼りない気がするんだよな。

 まぁ、とはいえ、そんな人から好かれようともしないし、必要とされたいとも思わないおれでも、思いもよらずに人の役に立つことがあるらしい。というのもーー、

 この前、仕事中に唐突に感謝のことばを告げられたのだ。

 それもふたりに。

 そのふたりは結構なご高齢で、その日がちょうど退職の日だったのだ。

 だが、おれはそのおふたりと深く付き合いがあったワケではなく、一日の終わり頃に数十秒、長くても二分ほど顔を合わせる程度の関係でしかなかったのだ。

 まぁ、おれも礼儀や敬語を半分捨ててしまったようなゴミチンピラではあるので、話し方も態度も無礼千万なのだけど、先日そのおふたりが退職するとなった時にお礼をいわれたワケだ。最初の方からはーー

「実は今日で退職するんです。つまらないモノですが、どうぞ。これまで本当にお世話になりました。ありがとう」

 と、そういわれお菓子を頂いたのだ。これには礼儀を忘れたおれも流石に恐縮してしまい、ドブ川に投げ捨てたはずの敬語を久しぶりに使ってしまったのだ。

 そもそも、おれのような日にちょっとしか顔を合わさないほぼ他人のようなチンピラ相手に礼儀も礼も無用なのだ。だが、わざわざそういって贈り物をしてくれたことは流石に有難い限りで、おれのようなゴミでも案外必要とされるモンなのかとちょっと嬉しく思ったのだ。

 ふたり目の方は、やはり日にちょっと顔を合わせる程度で、そのちょっとの間に少し会話をするぐらいの関係だったのだけど、その日は特に何も話すこともなく、おれに笑顔を向けていたのだ。おれも何かあったのだろうかと思い、

「ん、どうしたん?」

 と礼儀の欠片もない訊ね方をしたのだけど、それに対してその人は、

「いやぁ、おれも今日で終わりだからさ。キミには本当に世話になったね。ありがとう。これからも元気に頑張ってね」

 と仰ったのだ。これには無礼の塊である五条氏も改めて平身低頭になってしまいまして。とはいえ、ボキャブラリーも貧困なおれは、

「いえいえ、こちらこそお世話になりまして、ありがとうございました。お元気で」

 とその程度のことしかいえなかった。だけど、そんな感じで礼をいわれると、おれのようなゴミチンピラでも、有り難がられることもあるんだな、と感慨深いものがあったよな。

 というか、自分をゴミ、チンピラと称するのは、案外、自分だけなのかもしれないとも思ってしまうよな。そんなことない?ーーまぁ、おれがゴミチンピラなのは事実だからな。

 とまぁ、つまり何がいいたいかというとーー

 人間、自分が思ってるほど価値のない人間なんていないってことだよな。

 つまり、自分が考えている以上に、人は自分という人間を必要としているってことだ。ちょっと自惚れが強すぎるかな?

 ま、そんなワケで、自分には価値がない、必要ない人間だ何て思わないで、別に代えが利く程度の存在でもいいやぐらいに思いつつ気楽に頑張ればいいんでないかね。

 自分が思っている以上に、人はアンタのことを見ているし、認めているんだからな。

 あ、でも、おれのことは買い被らないでくれよな。おれは単なるゴミチンピラでしかないんでな。こんなつまらない文章読む暇があったら、仕事なり勉強なりをして頑張りなさいな。まぁ、でもありがとう。

 そういうワケだ。足許ばかり見ていると、頭を電柱にぶつけるぜ。だから、もっと前を向けよ、前を。そういうことでーー

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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